短編小説
4
慇懃無礼な返事に、佳克の脳味噌が沸騰した。怒りのままに怒鳴り散らしたかったが、舌が何故か動かない。
瀬尾が嫌らしい顔で微笑んだからだ。
薄っすらと笑みを刷く唇をなぞるように、紅い舌先をゆっくりと這わせていく。明らかに佳克に見せつけるために。
佳克の動悸が更に速くなった。喉が急速に渇き、息苦しさに思わずネクタイを緩める。
「嫌らしい動きですね」
自分のことは棚に上げ、瀬尾は言う。
「辛かったんですね? ずっと震えてましたね。しかも尻まで振って。椅子に擦り付けてみてどうでした? 気持ちよかったですか? いえ、違いますね。届かなくて余計に飢餓感が増したでしょう」
全て知られていた。
佳克は目の前が真っ暗になるのを感じた。
「そんな顔しないでください。あなたが我慢する姿、エロくて素敵でしたよ」
悪魔の笑みだ。背筋が冷えた。
佳克は震えた。ついさっきまでの甘い震えではない。恐怖のそれだ。
ここにいたらダメだ。笑う膝に必死に力を込めながら、佳克は椅子を蹴った。
しかし瀬尾の動きの方がはるかに速かった。
肩を強かに突き飛ばされ、再び椅子に沈む。
キャスターつきの椅子は後方に滑り、背後にあったスチール棚に当たって止まった。
「いってぇ…!」
佳克は後頭部を押さえて呻いた。突き飛ばされた衝撃で棚に打ち付けてしまったのだ。メガネがずり落ちて片方のつるが外れた。
「すみません。少々力加減を誤ってしまいました」
誠意の欠片も見えない声でそう言う瀬尾が、佳克の前に立ちはだかった。綺麗な指先をそっと伸ばし、佳克の頬に触れる。
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