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短編小説
1
―――も…もう駄目だ………



 大澤佳克(おおさわよしかつ)は半ば霞がかった思考の中、ボンヤリと願う。

 身体が熱くて疼いて狂ってしまいそうだ。

 こめかみから流れ落ちる汗の滴。つつと落ちて顎の縁を伝い、ポトリと太腿に垂れる。その他愛もない刺激すら、強烈に感じて肌が粟立った。背筋に重い戦慄が走り、危うく喘ぎがこぼれそうになる。



―――しっかりしろ…!



 心中で悲鳴を上げ、ギリギリと唇を噛む。ドッと汗が出て、きつく握られていた拳の中が滑る。

 体内からの衝動に目の前が霞む。理性も何もかも脱ぎ捨てて、身体の求めるままこの凄まじい感覚を解放してしまいたい。そして心行くまま浸り堕ちていきたい。

 だが、ここで崩れる訳にはいかない。

 何しろここは会社内で、自分の戦場でもあるオフィスの中。

 夜はとっぷりと暮れているが、まだ部下が二名残っているのだ。

 ここで醜態を晒してはいけない。分厚いメガネをかけた細面といういささか迫力の欠ける顔立ちをしているが、佳克は部内ではそこそこ鬼部長で通っているのだ。ここでその権威を失墜させる訳にはいかないのだ。

 それでも限界だ。今にもガクガクと震えだしそうなのを必死に抑え、焦点の合わぬ目を机上のノートパソコンに据えているが、その視覚情報は少しも脳に到達していない。

 熱のこもる吐息を漏らしてしまい、背筋が凍る。しかしすぐに身体の奥から湧き上がる疼きに意識が引きずられる。

 こんなに苦しいなんて。

 部下に気づかれないように、コソコソと身じろぎする。さりげなさを装っていても、その意味は淫靡だ。

 熱を孕み、腫れぼったくなって疼く身体の深部を椅子の座面に押し付けているのだから。



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