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短編小説
8
「やった!」



 幽霊の顔はまさに得意満面。どうだと言わんばかりに腕を掲げる。

 井伏は呆然と空になった我が手を見つめた。自分の手から発泡酒の缶が幽霊の手に渡ったのだ。



「ちょっと俺凄い? 絶対触ってやる〜って気合入れたんだ。そうしたら、これ! どうよオッチャン、俺ってすごくね?」

「…ポルターガイスト…」



 嬉々として缶を振り回す幽霊を見て、思わず井伏は呟いた。嬉しそうに騒ぐ素直な姿は若者らしくて微笑ましいとも言えるが、しかし相手は頭から血を垂れ流す幽霊なのだ。

 井伏は独り言のつもりだったが、地獄耳らしい幽霊はすかさず反応して更に高く振り上げた。



「ちょっとそれは酷いんじゃないのー?!」

「あだぁー!!」



 ガコンと鈍い音が居間に響き、井伏は畳みの上に転がった。幽霊の振り回した缶が額に激突したのだ。転んだ拍子にちゃぶ台の角に頭を強打して、井伏はそのまま無言で蹲る。堤防で転んだ時に出来た傷を再び打ったせいでダメージがデカイ。



「うおっ、大丈夫かオッチャン?」

「だ………いじょうぶなわけあるかぁぁぁ!!」



 怒号と同時に井伏は飛び起きた。頭の痛みのせいで、元々擦り切れ気味だった理性が完全に摩滅する。



「この腐れ幽霊野郎が! ぶっ殺す!!」



 大きな拳を固めて、本気で若造に飛び掛った。しかしまたもや井伏の身体は幽霊を突き抜けて、勢い余ってそのまま縁側近くまでもんどりうつ。危うく庭に転がり落ちるところだった。





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あきゅろす。
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