短編小説
6
井伏はちゃぶ台に材料を広げ、黙々と一人作業をする。
それまでは居間の中を面白そうに眺めていた幽霊は、退屈したのかノコノコとちゃぶ台に近づいてきた。
「………オッチャン、何やってんの?」
「見りゃ分かるだろ。ほれ、これに乗って帰れ」
井伏はナスに割り箸を四本ブッ刺したものを幽霊に押し付けた。
「成仏しろよ」
思い切り真面目な表情で井伏にそう言われ、幽霊は逆上してナスを放り投げる。
「酷い! 家に上げてくれたと思ったら速攻で見捨てるのかよ?!」
「見捨てちゃいねぇだろう。灯篭流しもしてやろうか?」
「何もそんな露骨に追い出しにかからなくてもいいじゃない! もうちょっとここにいさせてよー!」
「耳元で喚くなっての」
自分の首に両腕ですがり付いて騒ぐ幽霊に、井伏は眉間に深い皺を刻む。
「だいたい、どうして俺なんだ? たまたま墓場で見かけたからっていうのか?」
「………もしかしてオッチャン。俺って迷惑?」
「ああ」
「うわ。何てストレートな答え…」
身も蓋もない井伏の返事に打ちのめされ、幽霊は畳みの上に沈んだ。
畳の上で伸びた幽霊の後頭部を見つめながら、井伏はタバコに火をつける。深々と吸ってからゆっくり煙を吐き出すと、渋々口を開く。
「あいにくと俺は霊感もねぇし、当然坊さんみてぇにお前を導いてやることもできん。知識もあるわけねぇから、お前をどうしてやることもできねぇんだ。こんな俺の側にいても、お前にはなんの益もねえ。だからもっと徳のある―――」
「オッチャンじゃなくちゃ嫌なんだ」
幽霊は顔だけ上げると、井伏の言葉を遮った。
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