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短編小説
5
「〜〜〜〜!」



 井伏は素早く立ち上がり、駆け出した。



「オッチャン、どこ行くんだよ?」



 幽霊など知ったことか。

 出来れば自分に構わず消えてくれと腹の中で願いながら、井伏は海岸通とひたすら駆け抜けていった。









「…まあ、そう簡単には振り切れねぇとは思ったよ」



 苦虫を噛み潰した顔で、それでも諦めを滲ませた声音で井伏は言った。



 チリンチリンと軒下で風鈴が鳴っている。

 閑静な住宅街の端にある、ごく普通の平屋。築四十年を迎えた、いささかどころか随分と古びた畳敷きの居間。そこで井伏は座布団も敷かずに胡坐をかいていた。

 この家は井伏の両親のものだ。父母ともに鬼籍に入ってしまってからは、しばらく空き家だった。隣の婆ちゃんが空気だけは時々入れ替えてくれていたようだが。

 仕事も家族も失った井伏は、それまで住んでいたアパートを引き払ってこの家に戻ってきたのだ。

 幼少の頃から住んできた懐かしの住居。埃は多少残ってはいるが、なかなか郷愁を誘って居心地がいい。



 そんな居間の一角に、あの幽霊がしっかりと居座っている。



「だってオッチャンってば足遅いよ。運動不足じゃないの?」

「余計なお世話だ」



 よりにもよって仏壇脇の壁に寄りかかって足を投げ出している幽霊に、井伏はフンと鼻を鳴らす。

 幽霊は相変わらずうるさいが、井伏はいちいち構わないことに決めていた。反応すればするほど調子に乗る相手は、無視するのが一番だ。



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あきゅろす。
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