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短編小説
9
「先輩…今のは…?」

「…タクシー会社に、迎えを遣すよう電話をしよう」



 カルナは静かにデリクを見返す。瓶を暖炉で叩き割ったようにはとても見えない、冷ややかな表情で。

 毛筋ほども乱れた様子を見せないその姿に、デリクはカルナの完璧な拒絶を感じ取った。

 デリクは小さく嘆息する。



「…電話をお借りしてもいいですか?」





*  *  *   *  *






 胸騒ぎが静まらない。



 デリクは多めのチップを渡すと、タクシーを降りた。

 あばた顔の運転手は、怪訝そうに首を傾げながら去っていった。乗っていくらも経たないうちに降ろしてくれと要求したのだから、当然だ。

 外套の襟を立て、帽子を目深に被りなおすと、デリクは森に囲まれた田舎道を歩き出した。もちろん、行き先はカルナ・グローン邸だ。



 あの異様な気配は何だったのか。あれは、カルナ自身とどう関わっているのか。

 何故こんなに気になるのか、自分でも分からない。

 分からないまま、デリクは夜露に靴の爪先を濡らしながら歩いた。



 幼い頃から、好奇心が人一倍強かった。そのせいで厄介事に巻き込まれたことも何度もあるが、そう簡単には治らない。そんな性格に後押しされるように、デリクは先程自分が出てきた扉のノブを、そっと握った。

 幸い、鍵は掛かっていない。わずかな軋みと共に開いた扉の隙間を、素早く通り抜ける。

 他人の家、しかも会社の先輩の家に無断で侵入するという背徳感。デリクは緊張に乾いた唇を何度も舐めた。



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あきゅろす。
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