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短編小説
6
「一応言っておく。この部屋から出ないほうがいい」

「どういう意味です?」



 扉を半分くぐりながら背中越しに発せられたカルナの言葉に、デリクは眉根を寄せた。しかしカルナはそれきり無言のまま廊下に姿を消した。



―――あんな感じの人だったか?



 残されたデリクは、改めて首を傾げる。



 社内でもカルナとは特別に言葉を交わしたこともないデリクだが、それでも自分が入社した当初の、カルナの様子は覚えている。

 どこか傲慢さを感じさせる立ち振る舞いや不思議な噂を持つ彼だったが、同僚に対しては快活だった。レスターと笑いながら立ち話をしていた姿も見たことがある。

 不思議な経歴ゆえに、どこか危険な匂いを感じさせる青年。その頃のカルナのイメージは、こんなものだった。



 それなのに、いつの間にか彼は変わってしまっていた。

 不遜な態度は消え、力強い光に満ちた瞳は暗く翳り、整った顔は表情を失って硬くなった。他人に興味を失い、冷ややかに自分の殻に閉じこもる。



 ずっと傍から男を見ていたデリクは、その変化に心動かされた。



 彼をそうさせたのは一体何なのか?

 その変化は、彼が怪我を負った時期に重ならないか?







 程なくして、カルナは一冊の厚い本を抱えて戻ってきた。



「本当に、これでいいのか…?」



 冷たいだけのはずの表情が、わずかに揺らいだ。デリクが借りたいと希望したのは≪妖魔の書≫という奇書だった。



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あきゅろす。
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