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短編小説
4
「応援を頼む! また殺しだ!」



 パトカーを回すよう叫ぶ年配の警官の傍らで、歳若い巡査が激しく道路に向けて嘔吐している。



 新しい世紀を迎え、ここウエストポート地区はスラム街から都市計画にのっとった住宅地に整備された。それと同時に、追剥や強盗、殺人といった凶悪犯罪の温床も根絶やしにしたはずだった。

 だが、ここ最近、警察官ですら目を逸らしたくなるような凄惨な殺人事件が続いていた。



 連続娼婦殺し。タブロイド誌などはもっと派手派手しい名称をつけて騒ぎ立てているが、警察内ではそう呼ばれている事件だ。



 この二週間で、名目上はこの地区から一掃されたはずの娼婦たちが、三人も惨殺されている。

 奇妙なのはその手口だ。

 どの女たちも胸や腹を裂かれて殺されているのだが、どんなものを使って裂いたのかが分からない。

 大きなその引き裂き傷は、刃物というよりも鋭い爪のようなもので出来ているようにしか見えないのだ。

 もしかすると、外国からの船荷の中に紛れていた猛獣が、檻を破って逃走した挙句にたまたま出くわした人間を襲ったのかもしれない。そんな推測も呼ぶほどに。

 あるタブロイド誌では、娼婦が倒れていた現場に得体の知れない動物の毛らしいものが落ちていたと報じていたが、真偽の程はまだ定かではない。







 最近、こうした猟奇的な事件が増えてきた。

 蒸気機関が発明されて百数十年。巨大な飛行船が空を翔るほどに文明は発達した。カルディス全土の主要な街に電気が通ってライトが灯り、原始的な闇は追いやられた。

 ………追いやられたはずだった。

 しかし、実際は違った。



 異界が近づいてきている。





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あきゅろす。
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