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短編小説
8
「やれやれ、夜のパビリオンなんてぞっとしないな」



 カルナの傍らを歩くエドワード・レスターがうんざりと溜息を落とした。

 ≪デイリー・シーン≫編集長のエドワードはカルナの友人であり、良き協力者だ。そのエドワードがカルナに会いたいという人物がいると言ってきた。その人物がジェシカだった。

 そのジェシカの依頼で、カルナはこのホールの中にいる。エドワードは本来は関係ないのだが、心配だからと付いてきたのだ。



「どうしてこんな時間を指定したのかい、ジェシカ?」



 最近ますますせり出してきた腹を揺すりながら、エドワードは少し先を歩くジェシカに声を掛ける。

 会場準備のスタッフたちは全員既に帰っており、ホールには三人の足音だけが響く。

 ジェシカは振り返ると、肩越しにエドワードを見やってからかうような笑みを浮かべた。



「あら、怖いのかしらエドワード?」

「おい、やめてくれ。どうやら君は、男のプライドを粉々にするのが趣味らしいな。確かに私は君のようにデカイ靴を履いて未開の地を歩き回る根性はないがね」

「ごめんなさい。この時間を指定したのは、もちろん理由があるわ」



 ジェシカはエドワードのもとまで戻ってくると、その肩を優しく叩いた。

 その親しい者同士の仕草を、カルナは横から冷めた目で見やった。



 かつては、自分もエドワードと肩を組んだりもしていた。

 しかし、今は指一本触れ合うこともない。彼に対してだけでなく、どんな人間とも。

 呪われた身体を持つが故に。

 ゾロリと左の肩甲骨内側が疼く。体内に宿る魔の一部が神経の近くで蠢いている。

 ―――あいつが…シオンが嗤っている………



 和やかに笑いあうエドワードとジェシカから少し離れ、カルナは密かにひとり歯噛みする。

 いや、ひとりではない。自分は常にひとりではあり得ない。

 背後の闇がわずかに揺れる、シオンの幻影がそこに潜んでいるかのようだ。

 思わず振り返り闇を睨みつけた時だった。エドワードが声を掛けてきた。



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