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短編小説
1
 そのミイラは、微笑んでいた。

 幸せな―――微笑だった。





* * * *





 日が暮れた頃、その屋敷の食堂に薄い明かりが灯る。その大きなテーブルについているのは、男二人。



「どうした、カルナ?」



 悦に入った男の声が、カルナ・グローンの神経を逆撫でする。いや、神経などとうにささくれきっている。

 ズルズルと隠微な音がして、身体が反射的に震えた。



―――クルウ…狂ってしまう………



 手が震えていた。冷や汗が流れ、シャツの生地を濡らしていく。

 背中の、左の肩甲骨辺りが異様な感覚に襲われている。皮膚が弾け、バックリと肉が割れ、身体の内側から異物が這い出してくる感覚。それは錯覚などではない。傍から見ても、その付近のスーツの生地が蠢き盛り上がってくるのがはっきりと分かる。

 己の身体の中から、異形が這い出してくるおぞましさ。

 常人ならばとうに正気を失っているだろう。けれどカルナはもう幾度となくこの感覚に叩き落されていても、まだ意識は屈服していない。

 意地というべきか、ただのやせ我慢というべきか。やせ我慢もここまでいけば立派なものだ。

 もう許してくれ。そう泣きながら懇願してしまいそうになる衝動を噛み殺し、カルナはその代わりにテーブルの向かいに座る男を睨んだ。

 大きすぎるテーブルゆえに、向かいとは言っても相手までの距離は遠い。やや暗すぎる食堂の明かりは相手の顔を完全に照らし出すことは出来ず、カルナの位置からではその表情を窺い知ることは出来ない。



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あきゅろす。
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