短編小説
2
身体も華奢でしなやかで、まるで天使のようだと言ったらかなりの皮肉だが、実際に天使のような愛らしい美少年だ。
「あれぇ? 博士ってばどこ〜?」
地下にある一室を覗き込んだリムは、いつもその部屋の隅にある机に張り付いている男の姿が見えなくて途方に暮れた。
そこは天井こそ高いが壁はコンクリートのうちっぱなしで蛍光灯だけが白々と光る洞窟のような部屋だ。
そして山のように得体の知れない機械やら謎の物体やらが机の上から床中まで、足の踏み場がないほど無造作に積まれている。そのせいで広いはずの室内は息苦しくなるほど狭く感じられる。
大抵の人間はこんな場所に長い時間いることは出来ないだろうが、この家の主人である当麻は違う。くたびれた白衣を着こんだ痩身の人間は、おそらく人生のほとんどをこの窮屈な空間に嬉々として身を置いているのだ。
しかし今はそんな男の姿が見えない。リムは恐る恐る部屋に足を踏み入れた。
リムはこの部屋が少し苦手だ。
人間界に現れた時の場所がここだったのが原因かもしれない。
今もあまり入室するのは気乗りしないが、空腹には耐えられないから仕方が無い。
「は〜かぁ〜せ〜?」
「ああ、リ…リムか」
何度か呼びかけて、ようやく返事があった。
ゴソゴソと謎の機械の隙間から白衣の男が出てくる。
いつからここに閉じこもっていたのか、いつもボサボサの髪はさらに乱れ、分厚いレンズのメガネは半ばずり落ちている有様。栄養状態の良くなさそうな頬には無精髭が浮いている。
この男こそ、当麻竜次。人間界で寄る辺無きリムの保護者になってくれている男だ。どうやら科学者という職業らしく、様々な実験や研究をするのが生業のようだ。だからリムは良く分からないまま彼を「博士」と呼んでいる。
「どうした、リム?」
「どうした? じゃないよ〜。お腹空いたんだよ〜」
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