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短編小説
1
「はかせぇ〜お腹空いた〜」



 リムはペタペタと裸足のままで、無闇にだだっ広い建物の中を歩き回る。飛んでもいいけれど、自前の蝙蝠型の翼は大きなネルのパジャマの下になっていて自由に動かせない。ならば歩いた方が速いというものだ。

 夜の帳が下りた建物の中は、古い病院だったせいもあってかどこか薄暗く物悲しい雰囲気がある。太陽の光の下で見ればまた違った印象があるのだろうが、しかし日中に起きることのないリムにとってはこの薄暗い空間だけが、自分にとっての人間界の全てだ。



 リムは人間ではない。

 いわゆる夢魔というものだ。

 人間の夢に現れ、その人間と性交して精を搾り取る。



 けれど、リムは何故か人間の夢の中でなく人間界そのものに実体化してしまった。どういう原理が働いてそうなったのかリム自身は全く分からない。だから自分の世界に帰ることも出来ない。



「ま、帰れないんならしょうーがないもんね」



 まだ夢魔として生を受けて間もないリムは屈託がない。状況をあるがままに受け止めて、この人間界ライフを楽しむことにしている。



 リムには角はないけれど、黒い蝙蝠型の翼と細くしなやかな尻尾がある。ここには他の人間はめったに来ないけれど、万が一うっかり目撃されてしまっては一大事だからと、この家の主人である当麻竜次(とうまりゅうじ)に大きめのシャツを着るように言われてそうしている。

 翼と尻尾さえ隠してしまえば、リムは普通の人間の少年と同じだ。いや、普通のとは少し違う。とびきりの美少年といった方が正しいだろう。

 白皙の小さな顔。頬は思わず突付きたくなるような柔らかさ。口角の上がった艶やかな唇に、形のいい鼻。やや眦が垂れているのがご愛嬌な目の、虹彩は琥珀色だ。瞳よりさらに明るい色の髪は柔らかくウェーブしていてフワリと額に掛かっている。



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あきゅろす。
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