短編小説
8
* * *
予想通り屋敷は無人だった。
時折にでも誰かが使えば、ここまで荒れ果てたりはしないだろう。カルナは用心深く足を進めながら屋敷内を見回した。
正面玄関にははじめから向かわなかった。裏手に迂回して調理場の横のドアを試したところ、意外にも鍵はかかっていなかったためにそこから屋敷内に入ったのだ。
無用心なことだ。自分も不法侵入者のくせにカルナはそうひとりごちる。きっとこの屋敷を守る一族は随分前に死に絶えてしまっているのだろう。
扉に鍵はかかっていなくても、屋敷内は特に荒らされてはいなかった。それどころか古くも高価な家具や呆れるほどの値がつくであろう絵画などの芸術品や骨董品の類までしっかりと残っている。
窓から射し込む一日の残光を頼りに足元を見ると、床には絨毯ほどの分厚い埃の層が出来ていて自分の靴が半ば埋もれている。
―――どうやら泥棒にすら一度も入られていないみたいだな。奇跡だ…
カルナはそっと息を吐き出し、禍々しい包みを抱えなおす。
痛いほどの静寂が支配した薄暗い空間だ。天井は高いのに息苦しい。
―――それに…何かの視線を感じる…
せっかく追っ手の目を盗むために侵入したというのに落ち着かないのは、そのせいか。ここにいると得体の知れない不安ばかりが大きくなっていく気がする。
何かがいる。
形にならない何かが。
粘つく執念深さと悪意を感じさせる禍々しい気配。
それは、カルナの手の中にある邪神の遺骸から感じるものと似ている気がしてならない。
いつのまにかじっとりと額に滲んでいた汗を拭う。
落ち着け。自分は今神経質になりすぎている。頭をはっきりさせて考えろ。
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