短編小説
5
レスターは、カルナがただ教団に潜入するだけではないことを知っている。この年下の友人は、もう何年も前からいくつもの悪質なオカルト教団と戦い、潰してきているのだ。
たった一人で、強力な力を持つオカルティストたちと戦うこの男の、その行動理由をレスターは尋ねたことはない。若いくせして倣岸不遜な態度を取るこの男の心の奥底に、何か逼迫したものがあると見抜いているからだ。
「―――で、今回は何日くらいかかる予定だ?」
編集長の質問に、平社員はその広い肩を竦める。片頬を歪めた自嘲めいた笑みがその精悍な顔に浮かぶ。
「さあな。俺としても早く戻ってきたいところだがね」
どこか斜に構えたその仕草。カルナはいつもそんな態度を取る。
同僚や上司の中にはそんなカルナの態度を疎ましく思う者がいる。そして、それが魅力と感じている者もいる。
レスター自身は、そんなカルナの態度がなくなることのないよう願っている。
自分には理解しきれない、厳しい戦いをしている彼だからこそ。
「じゃあな。オッサンにもよろしく伝えておいてくれ」
社長のスコットを指してオッサンと言ってオフィスを出ようとするカルナに、レスターは声を掛ける。
「無事に帰ってこいよ。いい酒場を見つけたんだ。一緒に行こう」
カルナは振り返らず、片手だけを挙げてそれに応える。その広い背中が他の記者たちに紛れて見えなくなるまで、レスターは彼を見送った。
それが、ある意味において、カルナの最後の姿となることも知らず。
* * *
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