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短編小説
8
 だが男はそれだけではすまさなかった。

 すかさずスラックスのファスナーを下げて下着の前を割り、佳克の性器を引きずり出した。

 佳克自身は胸元に抱えている鞄の陰になって見えないが、自分の陰茎が外気に触れてわずかに硬くなりだしたことは嫌でも分かる。



「や…やめ………ひぃっ!」



 じかにペニスを触られて息を詰めた佳克だったが、下肢に意識を持っていかれたとたんにうなじを舌先で舐め上げられて跳び上がった。

 身体はますますドアに押し付けられて、息苦しいほどだ。

 動けない。抵抗出来ない。

 ただ剥き出しになった股間に男の手を感じていなければならない屈辱感。



 けれど、今回は少し違った。

 最も守りたい場所が露になったせいだろうか。奇妙な高揚感がどこかにある。

 この人込みの中で性器を出して、いつ何時他人に見られるか分からない。それが恐怖の源なはずなのに、それを想像すると身体が熱くなってくる気がする。

 一体、自分はどうなってしまったのだろう。

 泣きたくなるほど恥ずかしいのに、何故かゾクゾクとした期待感がある。まるで何かのスイッチが入ってしまったかのようだ。

 そんな佳克の様子が背後の男にも伝わったのだろう。

 男が含み笑いしている気配がする。



「なぁんだ。早く触って欲しくてお強請りしてたんだ?」



 耳朶にかかる吐息と嘲笑。けれど男の息にも抑えがたい熱が含まれていることに佳克は気づいた。

 なにしらばっくれて笑っているんだ。お前だって興奮しているじゃないか。そう男を詰ってやりたい気分になる。

 男の方は己の欲求を隠す気もないらしい。

 突然背後から腰を押し付けてきたかと思うと、佳克の尻の狭間に擦りつける。男の前も硬く勃起していて、佳克の後腔の入り口をゴリゴリと刺激してくる。

 佳克は堪らず額をガラスに擦りつけた。窓に当たってメガネがずれる。男の骨ばった手が伸びてきて、そっと佳克のメガネを取り上げた。

 メガネを返せとその手を視線で追いつつも、ぼやけてしまった視界に誘われて、このまま何もかも男の手に委ねてしまってもいいような気分になる。



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あきゅろす。
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