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Sakura tree

「ねぇねぇ、先生!こないだやってた怜姫と遠矢しろのの雑誌、今日発売だよ!?」
「そうだねぇ」

今日も集まってきた怜姫ファンの女子生徒達に、真弓はのんびりと返事する。

同性愛だからといって、意識し過ぎていたのかもしれない。
過敏に色んな事に反応し過ぎて、勝手に苦しくなっていたのも多いにあると気付いた。
軽蔑され排斥されるのが当たり前だと思ってきたから、それがオープンになった時にどうすべきなのかわからなかったのだ。
隠さなくていいなら、どう振る舞えば?どうして居ればいいのだ?と。

異性愛者としてならずっと『普通』を装ってきたが、同性愛者として『普通』で居る発想が持てなかった。
同じ人として見てほしいと言っておいて、自分がそう見れていなかった。
どうせ根強い偏見があって、油断して話せば問題視されると信じていた。
けれど、それが何だというのだ。
異性愛者を装っていた方が楽だったかもしれないと思うほど苦しんでるのは、誰のせいでもない。自分のせいだ。
もともと失う覚悟していたのだから、いっそ堂々と『普通』にしてもいいんじゃないか。
もっと自分を楽にしてもいいのだ。

「先生も絶対買うでしょー?」
「えーっ。ああいうのは、先生買わなそうじゃない?」
「そっかぁ。立ち読みもちょっとねぇ。あっ、ならネットで買ったらいいじゃん!」

怜姫が注目されたきっかけとなったサブカル系のファッション雑誌は、三十路目前の男には買いにくいと思ったのだろう。
しかし、真弓にはそんな事は何の問題にもならない。

「ん?大丈夫だよ?先生、もう本屋で買ってきたから」

生徒の会話がぴたりとやむ。
が、真弓はにっこりと微笑みながら続けた。

「本屋に行けば目の前にあるのに、いちいち体裁を気にしてネットで買うこともないかな、って」

かたまる生徒達など構わず、いそいそとカバンから雑誌を取り出す。

「実はね、怜さんが載ってる本を学校でこっそり見て、スクラップするのが内緒の楽しみだったんだ。家に帰るまで待てなくてね」

ふふっと笑った真弓は、先生達にバレたら怒られちゃうからと秘密にしてくれるようお願いした。
生徒達はこくこくと頷いて、笑みをこらえながら互いに目配せした。

「僕としては女装の怜さんの方が生き生きしてて好きなんだけど、やっぱり女の子は男の格好してる方が好きかな?」

にこにこと嬉しそうに雑誌を眺める真弓を見て、生徒達も嬉しくなった。

「えー!?怜姫ファンは女装を認めてこそですよ!ねぇ!?」
「男バージョンもカッコよくて好きだけど、そこを理解しない人は本物のファンとは言えないから!ねっ?」
「男だったRekiがよかったなんて言ってる人は浅い浅い!」

そうそう。と頷き合う彼女達が、本物の怜姫ファンだと自負しているらしいと知り、真弓は嬉しく思った。
虚像にとらわれず、怜を理解しようとしてくれている事が。
こういった支持がある限り、怜姫は本物で在り続ける。
空っぽの飾りなんかにはならない。

「あっ!先生、今までの全部スクラップしてるー!」
「ウソぉ!見せてー!」
「きゃあ!すごーい!」

怜の言う通り、開き直ってバカになってみたら、自分も周りも笑顔になった。
それを真弓は実感して、また怜に感謝した。

「僕が気に入ってるのは、この撮影の合間に寝ちゃったやつなんだ。ちっちゃい写真だけど」
「うわぁ、先生やだ、エローい!」
「何がエロいんだ!これ見た時すっごく感動したんだからね!?Rekiじゃなくて怜さんだ!って!」

保健室を覗きに来た王子は、生徒と怜の話題ではしゃぐ真弓を見て笑ってしまった。
そしてそれを怜に報告したらどんな反応をするだろう?と企むのは友人の茜の役目だ。

「え?もちろん写真集もDVDも持ってるよ」
「もー、やだー!先生ストーカー並みに怜姫ラブじゃーん!」
「ストーカーじゃないよ!失礼な!」

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あきゅろす。
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