Sakura tree
5
オマケは、普段の日本での撮影風景だ。
壱織が映ると、悲鳴と共に「おーっ」という驚きや感動の声が上がった。
撮影中はいつもの壱織で、カメラに気付くと気さくに笑って話しかけた。
「何のカメラ?あぁ、メイキングか。怜ちゃんの写真集の」
「うん、そうなのー」
二人のファンは、彼らが怜ちゃんのんちゃんと呼び合うのを喜ぶ傾向にある。
彼らの仲の良さや素が見られるようで嬉しいからだ。
「じゃ、今関係ねぇーじゃん」
「いーのっ。イベントで流すから、のんちゃんも映っといて」
冗談混じりに甘えてねだると、甘い兄の顔が覗く。
「しゃーないな」
言いながら、自然に腹部に腕を絡める。
楽屋でも壱織がべったり絡んで、しかしそれには触れず自然に会話は続く。
「フランス行ったんだろ?どうだったのよ」
「んー?楽しかったー。忙しかったけど」
「へー、よかったじゃん」
話しながらお菓子を取った壱織は、それを怜姫の口に運ぶ。
怜姫もそれを黙って受け入れている。
壱織はカメラにいたずらな笑みを見せた。
「餌付け」
お兄ちゃんの愛情が見え、可愛いと思ってる事が伝わる。
そこにたまたま立ち寄った悟が現れ、観ている会場は更にどよめいた。
メイキングのカメラだと説明されても悟の反応は薄い。
それより怜の体調が心配なのだ。
「体は?忙しいんだろう?平気なのか?」
そこでもさらりと頬を触るという、彼らにとっては然り気無いスキンシップがはかられる。
「うん。ねぇねぇ、悟兄それ何ー?」
兄の心配より今は彼の手にある箱の方が気になっている。
「ケーキ屋の箱だろ。怜ちゃんに箱だけ差し入れだって」
「いやっ、中入ってるでしょ!」
「さて、入ってるかな?」
壱織はふざけて遊んでいる。
会場は笑いに満ちる。
「何があるのー?ねぇねぇ」
怜は箱に手をのばし、見せて!と受け取る体勢だ。
「さて、入ってるかな?」
悟も壱織のセリフをマネて、怜をからかう。
「え!?入ってるでしょ!?イヤだ、箱だけなんて!」
「素敵な箱じゃないか、怜ちゃん。なー、兄貴」
「ほら、怜。箱」
恐る恐る箱を受け取ると、ずしっと重みを感じる。
「入ってるじゃなーい!もぉヤダー!」
壱織はケラケラ笑い、悟もふっと吹き出す。
遊ばれて怒る事も無く、怜姫は箱を開けるともうシュークリームに夢中だ。
「あっ、エクレアもあるー。どっちにしよっかなー。どっちも食べたら太っちゃうなー」
うきうきと難しい問題に立ち向かうが、背後の悪魔が囁く。
「いいじゃん、食いたいなら」
「え〜?でもぉ」
そして悪魔はサービスを知っている。
「大丈夫でしょ、怜ちゃん細いんだから」
そう言ってTシャツをぺらっと捲り、腹部が覗く。
「いやぁ!バカ!悟兄ー!のんちゃんがバカー!」
「俺がバカって何だ!」
「怜、望はこういう子なんだ。諦めなさい」
すました顔して、悟はさらりと冗談を言う。
「兄貴、ヒドイ!」
「はーい」
「はーいじゃねぇよ!」
感動と笑いのメイキングになってしまったこの密着映像は、それぞれのファンの間で話題になり、後に要望でDVD化される事になった。
VTRが終わり怜姫が登場すると、大きな歓声が会場に響いた。
挨拶をして、怜姫はまず色々な事を謝った。
隠していた沢山の事。
それで傷付けてしまったかもしれない事。
「だいじょぶだよー!」
「謝らないでー!」
次々重なるその声に、怜は救われた。
「飛翔する薔薇は、大きな木が受けとめてくれました。私は皆に助けられたから、今度は皆を受けとめてあげられるような人になりたいです」
信念。
世界に一人ぼっちだと思っても、何処かで誰かが「わかる」と言ってくれるだけで救われる事がある。
遠くても。例え小さく頼りなくても。
今度は、私が誰かの木になりたい。
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