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Sakura tree
第二十五話 私も貴方の木になろう
怜が泣き出すと記者の方が驚いてしまい、おろおろとなだめるのにまわった。
まさかこんなにもさめざめと泣かれるとは思ってなかったのだ。

「とりあえず事務所に連絡した方がいいんじゃないですか?」
「……はい」

何やってんだ、と自分に呆れつつ。
記者は怜が携帯を出すのを見て去ろうとした。
そして去り際に聞こえた声が耳に残った。

「ごめんなさい…っ。雨崎さん、ごめんなさい…!」

記者は咄嗟に足を止めて会話を聞いた。

「先生の事バレちゃったの…っ。先生が仕事辞めちゃったらどうしよう!」

泣きじゃくるのを見て、記者は目を丸くした。
マネージャーは恐らく交際の事実を把握していただろう。
それはわかった。
しかし初めての恋愛スキャンダルで気が動転しているのかと思えば、彼は自分のスキャンダルどうこうより相手の事を心配してあれほど泣いていたのだ。

怜姫のお相手とされる人物は男性で、中学校の養護教諭。
生徒達にも人気の、五つ年上のイケメン。
怜姫が自宅マンションに通う姿が何度か目撃されていて、チェーンでネックレスにしている指輪はお相手とお揃いではないかと予想される。
中学校というと思春期の難しい時期の子供達で、その教師が同性と付き合っているとなると微妙な問題だ。
それも相手は芸能人。
子供に悪影響だとクレームが出てもおかしくない。
そういうリスクをわかっていて彼らは付き合っていたのだろう。
けれど記者はそれでも仕事を全うするつもりだ。





マネージャーが来る間、怜は真弓先生にも連絡した。
真弓はすぐに降りてきてくれると言ったが、怜は断った。
一人で待ってろと言われたし、今会っても辛くてまともに顔を見られないからだ。
けれど真弓はタイミングを見計らったように、車が来ると出て自分と行くと
言った。

「とにかく乗ってください!」

後部座席に並ぶなり、真弓は怜の手を握った。
そこから安心感が伝わって、連絡したはまた目を潤ませた。

「ごめんなさい…っ」
「怜さんが悪いんじゃないんですから、ね?」

それでも。
怜は恐くて、真弓の顔を見られなかった。


社長の杉浦、矢嶋、マネージャーの雨崎を前にした真弓の第一声は謝罪だった。
腰を折り、深々と頭を下げる。

「本当に、申し訳ありませんでした!」

怜はびっくりして言葉も出なかった。

「どうしても会って話がしたいと言ったのは僕です!責任は僕にあります!」

どうして庇ってくれるんだ。
先生は自分のせいで仕事が奪われるかもしれないのに。

「責任って、どうとってくれるつもりなの?」
「社長っ」

杉浦の追及に矢嶋は慌てた。

「教師を辞める?それで責任がとれると思ってるのかな。辞めたら怜姫にどんなイメージがつくと思う?“スキャンダルで彼氏が仕事を辞めさせられたオカマ”だよ」

きつい言い方だが、矢嶋や雨崎が反論できないのを見るとそうなのだろう。
とんでもない事をしてしまったとぽろぽろ泣く怜の背に触れ、真弓は自身の無力さを恨んだ。

「君達は何処まで進んでるの?」

矢嶋と雨崎は突然何を聞くんだと疑ったが、杉浦はいたって真面目だ。
怜が答えるのは無理そうだと判断し、真弓が答えることにした。

「正直に言います。何処まで、と言われたら……何処へも進んでません」
「へぇっ?」

驚いて思わず変な声をあげてしまった矢嶋は口を押さえた。

「だって、自宅から出てきたトコ撮られたんでしょ?何回目?初めてじゃないだろう?」
「自宅へは何回か来てます。けど、何もありません。怜さんは手を繋ぐのも恥ずかしがって耐えられないくらいですから」

真弓は真剣に、正直に答えた。
矢嶋は口をあけ、信じられないとばかりに首を振った。

「今日、初めてほっぺたにキスを許されました」

顔を真っ赤にした怜を見て、杉浦はケラケラと笑った。

「いいね!」
「何がいいんですか!」

ついツッコんでしまった矢嶋は、ハッと気付いた。

「まさか、ただの友人だったなんて言いませんよね?」

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