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Sakura tree

芸能一家の家族写真は豪華で華がある。
小さい頃を見ても怜はやっぱり怜で、中学生の時は少し拗ねているが、高校生になるともうオネエだ。
しかもそれまでは黒髪なので新鮮だ。

最近撮った怜がコスプレした写真も公開されたが、プライベートで、しかも男兄弟でそんなコスプレ撮影会をして遊んでいるのは仲がいい証拠である。
何故仲がいいのか。
それは何より、怜が居たからだと兄達は思っている。
怜が居たから、両親の教えを真面目に受け止めた。


怜が乱暴な遊びや言動を嫌い、活発に動き回るより室内で穏やかに過ごすのを好むとわかったのは幼い時だ。
両親ははじめ、この子はおとなしいタイプなんだと認識していた。
しかし、問題は幼稚園に入って起きた。
穏やかで柔和な性質や、荒々しさの無い振る舞いのしとやかさが異質なものに見られたのだ。
オカマだ女だとからかわれ、泣いてしまったと連絡帳に書かれたのが始まりだった。
差別的な言葉や態度で傷つけられる以外に、実際に突き飛ばされたり蹴られたりという事もあった。
なのに、怜はそれを家族に言わなかった。
何も言わず泣くだけで、誰かの悪口を言ったのも聞いた事がない。

悟と望はそれを小さい頃から見ていたし、何よりも自分達の弟が人とちょっと違うからっていじめられる事に疑問と憤りを感じていたから、両親の教えを実行に移す事に抵抗が無かった。

俺達が怜のナイトになる。

兄達のその決意も、こっそり守られていた事も、怜はこの時初めて知った。
愛情を素直に表現する事はいい事だ。
怜は感動して、大好きな二人の兄に抱きついた。

そうやって育った悟と望だから差別意識は無いし、不快感を抱くなんて考えられなかった。
なのに本人だけが刷り込まれる様に、追い込まれる様に自分を拒絶し、嫌悪していった。
真実が露呈する事を恐れ。
迫害される事を恐れ。
孤独に陥る事を恐れた。
だから必死に自分を殺し、心の内奥にそれを隠した。

強がって“普通”を装う姿は痛々しくて、望は何度心に押し入って本当の怜を引きずり出そうと思ったかしれない。
けれどそれでは怜がぼろぼろになってしまう気がして、ただ扉の前で待つしかなかった。
怜がそこから出てきた時には、全身で受け止めてやろうと。


女の子は昔からくすくす笑うか、何も言わずに避ける程度で、そんなあからさまな侮蔑や嫌悪を向けられた事はない。
少なくとも怜の周りにはそんな子は居なかったし、むしろそういった差別的な攻撃から庇ってくれる子にも恵まれた。
怜を攻撃し、排除しようとするのはいつも男だった。
幼い頃からそうだったので、乱暴な言葉遣いや荒々しい態度をとる男性に未だにちょっとした不安を感じるのはそれが原因かもしれない。

だから怜は穏やかで、当たりの優しい人が好きなのだ。
初対面で真弓に好感を抱いたのもそれが理由だ。
好きな人のタイプの話題の時にそんな事を考えてしまって、怜は照れて赤面した。

番組の最後、サプライズでパパとママからVTRでメッセージが流れた。
杏子が公の場に登場するのは引退以来初めてで、ツーショットも大変珍しい。
一栄は小説家として知名度があり、出せば売れると言われるほど評価も高い。
執筆に影響しない程度にテレビ出演もしていて、顔で本が売れていると侮辱される事もあるが、それは嫉妬による低俗な揶揄に過ぎない。
杏子が現役時代は圧倒的に杏子の知名度、人気が勝っていたが、今ではすっかり忘れられた過去の人間だと杏子自身認識している。
そこには後悔も妬みも無い。
むしろ一栄の活躍を喜ばしく感じているし、そんな彼を見守り支えながら着いていける事を幸せに感じている。
仲がいい兄弟の関係も、この幸せそうな両親あってこそだ。

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あきゅろす。
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