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Sakura tree
第二十四話 観桜
不穏な空気を纏う怜は、皐が畏怖するべき硬質な兄の顔をかぶった別人だ。
今も不機嫌な顔を見せているが、今回はいつもと様子が違った。

ぷぅっとむくれて怒っているかと思えば、しゅんと項垂れていたり。
そして泣きそうに目を潤ませては悟と望に慰められる。
先生と仲直りしてまた晴れてデートができると思ったのに、しばらくは会うのを禁じられてしまったのが原因だ。
指輪と写真を眺めて頑張ろうとしたが逆効果で、余計寂しさが襲って泣きそうになった。

兄弟の事を発表した時も話題になったのに、今度は両親だ。
悟はカメラマンで裏側の人間だから、兄弟揃っての出演依頼は極力断ってきていた。
なので今は壱織と怜姫二人の露出が増えている。
これからは両親の事も聞かれるようになるだろう。

撮影や沢山の取材の合間。
ドーナツを食べている怜姫の隣には自然と壱織が座っていて、そこにはゆったりと穏やかな雰囲気が漂っている。

壱織は黙って手をのばし、怜姫の頬についた砂糖をとってやった。
二人は視線を交わしただけで、それ以上のアクションは無い。
そんなところから、これが彼らの日常なのだと窺わせる。
ドーナツに夢中の怜姫を頬杖で眺め、壱織はジュースをその口元に持っていく。
と、怜姫のほうも何も言わずストローをくわえた。
壱織は優しいお兄ちゃんの顔で、温かく微笑んだ。

「いつまで食ってんだ。休憩終わるぞ」

怜姫は子供の様にぱたぱたと足を鳴らし、チョコも!とまだ食べる気でいる。
「太るぞ」と言いつつ体型を維持できているのは知っているので、ご所望のチョコドーナツを口に運んでやった。
ここのところ元気が無いから、幸せそうな顔を見るとホッとするのだ。

そんな兄弟の微笑ましいワンシーンは、テレビ情報誌の撮影裏話として活字になった。





電話やメールだけで、会えない日が続いている。
しかし真弓の方は雑誌だけでなく、テレビでも怜を観られるようになった。
怜がカミングアウトし、兄弟の事も発表して秘密(タブー)が無くなったので、露出を控える必要が無くなったのだ。
怜が出ているチョコ菓子のCMがそれを象徴している。
内容を知らされず、いきなり出された商品を食べるというもので、素の反応が見られる。
ホームページでは三分のロングバージョンが公開されていて、真弓はそれも観た。

CMの撮影とだけ聞かされてスタジオにやって来た怜姫は、そわそわと落ち着きがない。
商品を目の前に出されて食べるように言われると、疑う素振りも見せず素直に喜んだ。
ぱたぱたと足を鳴らし、幸せそうな笑みを浮かべて食べる。
食べ終えると「もう一箱!」とねだって、二箱目に突入してCMは終わった。

こうして怜が怜らしく、楽しそうに笑っているのを見るとホッとするし、真弓も幸せに満たされた。





両親の事が明らかになりNGが無くなった兄弟は、三人揃ってトーク番組に出演した。
ここで一気に解禁というわけだ。
本人達の口から、家族について語られる。

壱織と怜姫は本名非公表だったが、その理由が両親にあった事がわかり、同時に公の場で初めて本名が公開された。

「怜ちゃんが“のんちゃん”て呼ぶから、最近ファンの人からもそう呼ばれるようになっちゃって」
「のんちゃんだって…!」

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