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Sakura tree

二人きりになりたくなかったので、真弓は近所のファミレスで彼女と会った。
レイコは初め嬉しそうにしていたが、真弓が話し出すと次第に表情が曇っていった。

「僕の恋人はマキさんと友人です」

レイコは不機嫌を隠さずムッとしている。

「マキさんは仕事場でもカミングアウトしてるんでしたね」

女装して会社に勤めている。

「マキさんから聞いてるか知りませんが、僕の恋人もマキさんと同じように、普段から女装している男性です」

その目には怒りと嫌悪、侮蔑が滲んでいた。

「ええ。僕はゲイです。女性は恋愛対象になりません」

真弓はさわやかに笑みながら、さらりと言ってのけた。

「本当はもっと前に言うべきだったんでしょうが、知るだけでも不快に思う方が居ますから」

かき回してくれたのと、彼女が放つ差別的な感情への当て擦りだ。
レイコも負けじと反撃する。

「だって、オカマですよね?ゲイって男好きじゃないの?オカマがいいって言うなら、本物の女の方がいいじゃないですか」
「貴方のように“男と女”という概念でしか考えられない人には、理解できなくて当然でしょう」

当人に嫌悪をあらわにするような人に言ってもわからないだろう。

「怜さんは……僕の恋人は、女性ではありません。でも、貴方が考える“男”というものでもありません」

笑顔を盾に、攻撃的に主張する。

「でも彼は男です。僕は男性が好きですが、女性的で可愛らしい彼が好きです」

レイコは理解できてない様子だ。

「女装してるから女だとか、男が好きなら女だとか。そんな単純なことじゃないんです」

世の中は、男と女の二種類じゃない。

「僕は女性には興味がありませんから、彼に本物になられてしまうと困ります」

彼が彼だから惹かれたのだ。

「僕は世間から批判され、職を失うのも覚悟して彼を好きになり、付き合う事を選びました。だから彼を、大切にしたいんです」

強くて明るい面もあるけれど、繊細なところもあるから。
彼を支えてあげたい。

「貴方は優越感や自尊心のために恋愛を利用しているのかもしれませんが、そんな事のために利用されるのははっきり言って迷惑です」

言い過ぎかと想いつつ、怜の事を考えて心を鬼にした。

「僕達は、人生をかけて付き合っています。男だからこそ覚悟が要る。大袈裟だって笑うような人にはわからないでしょうが」

レイコは、カルチャーショックと言うべき衝撃を受けた。
同性に走るのは異性に相手にされない人が血迷ってするものだと思っていたし、恋愛の為に人生を棒に振るなんて愚かだと思っていた。
まだよくわからない事もあったが、痛感した事もあった。
彼らの覚悟に比べたら、自分が恋愛だと思ってるものは軽薄だという事だ。
これまでこんな覚悟で恋愛に向き合っている人は周りに居なかった。
自分もこんな真剣に想ってもらえたら……というほのかな憧れも、そんな想いを暑苦しくて鬱陶しいと思っていたところからすれば大きな進化だ。

レイコは、こういう人がそれほどの覚悟で好きになるのはどんな人だろうと思ったけれど、今はただ謝るしかなかった。
きっと彼にお似合いの、素敵な人なんだろうと思った。

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あきゅろす。
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