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Sakura tree
第二十三話 桜時
窓から見える青天に浮かぶ笑み。
長い金髪をゆるく巻いて、ノンフレームのだて眼鏡でちょっと変装した気になる。
普段はパンツスタイルが多いけれど、今日は浮かれて白いロングスカートにしてしまった。
鏡の前でくるくる回って、何度もおかしいところはないか見直す。

落ち着かない胸を押さえ、ゆっくり一つ深呼吸する。
今日は先生とのデートだ。
まさか一生の内にこんな日が訪れるとは。
叶わぬ夢を見て憧れていた。
それが現実に今、起こっているのだ。

歩きやすいサンダルをはいている背中に声がかかって、怜はドキッとして振り返った。
目が合うと、彼はにっこりと笑った。
その何処にも意地悪な色は無く、優しさだけが滲んでいる。

「立って見せてみ」

怜は照れながら黙って言うことを聞くと、望はぎゅっとハグした。

「可愛い」
「変じゃない……?」

ぐっと親指を立て、完ぺき!と褒めてくれたのを素直に喜んで、ひらひらと手を振った。

「頑張れ」
「うん。いってきます」


金の髪を揺らして、駅前の階段をおりる。
息を切らして待ち合わせ場所にぱたぱたと走る怜を見つけた真弓は、自然と微笑み、その姿に愛しさを感じた。
不安げに胸の前で両手を握り、自分を探してきょろきょろしている恋人がとても可愛らしかった。

「こんにちは」

声をかけると、綺麗な相貌にぱぁっと笑みが咲く。

「先生っ。こんにちは」

真弓は動悸を打つ胸にとどめきれず、すっと顔を近づけ囁いた。

「とっても可愛らしいですね」

怜はどう返していいかわからず、ただ頬を染めて照れるしかなかった。

「行きましょうか?」

こくりと頷いて、好きな人の隣を歩く。
現実の事とは思えなくて、つい何度もちらちらと横顔を眺めてしまう。
本当に先生とお付き合いしてるんだという事もドキドキするけれど、その横顔にもうっとりと見惚れてしまう。
その顔が動き、目が合うと胸が跳ねる。

「あんまり見つめられると、緊張します」

だってしょうがない。
心臓が耐えられないほど鳴るのに、それ以上に好きな気持ちが溢れ出すから。
だけれど先生も緊張するんだとわかったら、自分だけじゃないとほんの少しホッとした。
微笑みあうだけで、幸せに満たされた。

「プラネタリウムって、初めて行きます」
「僕もです」

真弓は怜が以前行きたいと言った事を覚えていて、誘ってくれたのだ。

満天の星に感動して夢中になっていた怜の手をそっと温もりが包んで、怜は途中から緊張して固まってしまった。
明るくなっても照れていると、息遣いでくすっと笑うのがわかった。
緊張するって言ってたのに、やっぱり先生は余裕な大人だ。


「僕も行きたいところがあるんです」

そう言われて着いたのはジュエリーショップだった。

「先生…っ」

焦ってちょんと袖を引く。
女装しているとはいえ。いや。女装しているような男を連れて入るなんて。
先生は平然と、むしろにこやかに手を差し伸べる。

「だ、だって…っ」
「大丈夫ですから、ね?」

恐る恐る。
その手をとる。

「本当はサプライズでプレゼントするのが格好いいんでしょうが、僕にはそういうのは似合わないと思って」

いいや。
きっと、先生ならどんな形でも格好いいし、嬉しい。

「それより、一緒に選ぶ方が楽しいかなって」

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