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Sakura tree

「いいんです。それが一番嬉しいんです」
「でも……」
「元々、先生が支えになってくれて、背中を押してくれたから、この仕事をやろうって思えたんです」

だから先生が責任をとって当然だと言いたいんじゃ勿論ない。

「最初から無かったものです。二人で得たものだから、二人の為に失うのは恐くないです」

大事なのは、二人で居る事だ。
失う事は覚悟している。

「あの『飛翔する薔薇』みたいに……。それが自由の代償でも……」

構わない。
二人の為なら失ってもいい。

「必ず、怜さんを受けとめてあげます」

飛び立った薔薇を、枯らしてしまわないように。

怜は両手をきゅっと握られても、今度は逃げなかった。


休みの日に先生がわざわざ事務所に来てくれて、挨拶してくれるのがとても嬉しかった。
先生は席を立ち、深く頭を下げて言ってくれた。

「怜さんと、真剣にお付き合いさせてもらってます。いい加減な気持ちではありません!」

一緒に居たのは最初だけで、怜は席を外すように言われて部屋を出た。


「本当に真剣なら構わないんです。でも、私はあの子を昔から知ってるから、あの子を傷つけたり、裏切るような事は許しません」
「ええ、約束出来ます」

真弓は、怜と行った展覧会の事を話した。
矢嶋はノロケか?と思ったが、それは二人の覚悟の話だった。

「怜さんはその絵を見て、“自由の代償”だと言ったんです」

きっと、人前に出る仕事の代償。
付き合う事の代償。
それはゲイであることの代償で、つまり自分であることの代償でもある。

怜は自分で居る為に地面から飛び立ち、枯れる事さえ覚悟するのだ。

「怜さんは表に立ってる人で、自分なんかより受ける痛みも大きいでしょうし。それだけに大きな覚悟も要るでしょう。立ち続けるだけでもきっと大変な精神力が要ると思うのに、怜さんは仕事でのグチは僕には言わないんです」

支えると約束したのに、自分の前でさえ頑張ろうとしてるのかと思うと、自分が情けなくて、悔しくなる。

最初は高値の花で、付き合う付き合えないという問題ではなかった。
見ているだけで、ただ惹かれた。
だけどその前に人として、純粋にこの人を助けたいと思った。

ゲイなんて所詮幸せにはなれないものだと、勝手に思い込んで諦めようともした。
けれど教師から線を越え、どんどん近づかずにいられなくなったのは、気持ちが止められなくなったからだ。

「素直で、可愛らしい人で、明るく振る舞ってますけど、実はすごく傷付いてきたんだと思います」

まだまだ知らないことがあるだろうけれど。

「だから僕は、怜さんを支えて、ゆっくり時間をかけて癒してあげたいと思いました」

真弓はふっと微笑んだ。

「どうやらそれが、自分の幸せみたいですから」


誠実な人。
矢嶋の印象はそれだった。

怜はぼんやりしてるから騙されるかもしれないと心配していたが、そんな心配は要らなかったようだ。
心が広いと言うべきか、器が大きいと言うべきか。

羨ましいほどいい相手を見つけたな、と。

これで矢嶋はやっと、二人を応援する決意を固めた。

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あきゅろす。
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