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Sakura tree
第二十一話 『飛翔する薔薇』
マネージャーの雨崎に、店に迷惑をかけるしそろそろ辞めたらどうかと言われ、辞める事になった。

今までは近所に住む常連さんが怜を理解し、受け入れてくれていたから、店も人も温かくて好きだった。
けれど興味本意で怜を見に来る人が増え、店の雰囲気を悪くしてしまっていた。
迷惑をかけてしまったから主人に謝ると、いつでも遊びにおいでと言ってくれた。

辞めたのは悲しかったけれど、いい事もあった。
夜に時間が出来て、先生と会う機会が増えたのだ。
まだ先生との事を事務所に話していないと言うと、先生は自ら挨拶に行きたいと言ってくれた。
だからその前に、事務所に報告しようと改めて誓った。


アイドル、遠矢しろのとの撮影現場では、モデル達がまた怜姫の噂をしていた。
海外の人気カメラマンが何処で知ったのか、怜姫を撮りたいとオファーしたというのだ。
近く来日して直接交渉しに来るらしい。
そこまでの価値を何故怜姫なんかに見出だしたのか。
だいたい新人がどうやってこうも立て続けに大きな仕事をとれるのか。
壱織や悟の力だけじゃない。
お偉いさんに媚びて、色仕掛けで仕事を貰ってるのだろうと、下品な冗談を言って笑う。

「そんなの誰も乗らねーだろ。オカマなんか……」
「つーかアレ、キャラなんだろ?売れたくて必死だよなぁ」
「プライドねぇのかよ。そこまでしてテレビ出たいかね」
「実力じゃなくて壱織さんの名前とオカマキャラで売れたんだから、お笑いタレントだよ」
「テレビに魂売ってるよ。本当モデルじゃねーよな。壱織さんを利用した上に、泥塗ったな」
「それで俺ら本業のページとか、表紙までとられたらマジでふざけてる。ナメられてるって」
「さっさと辞めりゃいいんだよ。どうせバイト感覚のクセに」

散々怜姫を侮辱したその会話を、遠矢しろのはちゃっかり聞いていた。
彼らはスタッフ達に聞こえるのも気にしていない。どころか。むしろ聞かせたくて仕方ないように見える。
子役からやって来たしろのは経験上、ああやって他人を妬み、何とかその人の欠点を探して安心してるような人間性は売れないと思っている。
まず周りの人間に好かれないし、そんな人間は多くの人間を魅了する事も出来ない。
同じようなタイプの仲間とつるんで傷をなめ合う。
志も、レベルも低い。
彼らが尊敬する壱織は人を悪く言わないし、当然スイッチのオンオフはあっても裏表は無い。
怜姫だってアレが聞こえているのに、何も聞こえなかった振りをして明るく笑っている。

しろのは彼らが言う通り、怜姫のオネエはキャラで本当は異性愛者なんだと思っていた。
正しくは、そう思いたかった。
怜姫がクールでカッコイイ人で、女の子を好きになる人だと思っていたから、カミングアウトした時はショックだった。
だから本当は違うんだ!と思い込んだ。
けれど低レベルな人達の話を聞いていて、考え直した。
自分に都合のいい妄想を見ているだけなら、彼らと同じになってしまう。


「怜姫さん、おやつ食べます?と言ってもドライフルーツですけど」
「わー、ありがとーう」

しろのにおやつを貰った怜姫は、ほわほわと幸せそうに笑って言った。

男性陣に嫌われている怜姫は、女の子チームに入れてもらっている。
怜姫は他の女の子のネイルが可愛いとか、香水がいい匂いだとか、素直に思った事を口にする。
最初はキャラだと思われていたから、それも女の子に近付く為のお世辞だと思って怪しまれていた。
けれど怜姫はとても素直な人だった。

海外で買った日本未発売のバックを見せびらかしたくて持ってきた子にも、他の女の子は「すごい」「羨ましい」などと言いながら腹の中では苛立ったり悔しいと思っているものだ。
けれど怜姫は「芸能人みたい」と感激し、キラキラと目を輝かせる。
嫌味が無く、わざとらしくない。
むしろ無邪気で、裏が無い。
やはり怜姫はあの壱織の弟なんだと、深く納得してしまった。

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