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Sakura tree

暗に真弓の好みになりたかったと言われてしまうと、説明する声色もデレデレと甘くなってしまう。

「怜さん。ゲイだからって男なら誰でもいいってわけじゃない事は、わかってますよね?」

真剣な顔でこくこくと何度も頷くのが可愛らしくて、つい笑みが浮かんでしまう。

「人にはそれぞれ、好みがあります。男が好きでも、僕は筋肉質な人が好きなわけじゃないし、髪が短いから好きになるわけでもない」

怜はじっと、従順な子犬の様に真弓を見つめて耳を傾けている。

「怜さんの長くて綺麗な髪が好きだし、白い肌にも、ピンクの唇にもドキドキします。怜さんが怜さんだから、僕は好きになったんです。そのままで、大好きですよ?」

みるみる赤面した怜は、うろうろと目を泳がせた。

「あぅ……ごめんなさい……」

恥ずかしさで目を潤ませる怜を抱き締めたくなったが、怜がまだ慣れないからそれも出来ない。
そこで少し意地悪な気持ちが出てきて、真弓はこれくらい許されるだろうと思って言ってみた。

「それじゃあ、怜さんは僕の何処が好きです?」
「えっ」

狼狽える怜に助けを出さずに黙って待つ。

「私は……。私は、先生の優しくてあったかい声が好きだし、先生がにこって笑うところも……。目も、手も、全部っ。全部にドキドキして、全部好き…っ。……です……」

にっこりと満足げに笑う真弓の視線に耐えきれず、怜は顔を覆った。

「意地悪なのは嫌いですっ」

真弓はくすくすと笑って、怜への愛しさを実感した。
触れなくても、こうして会話をするだけでこんな愛情に満たされる。





「今度アイドルの女の子と仕事するんですけど、男としてだから、先生に見られるのがちょっと……って思っ……」
「アイドル?」

普段穏和な人ほど怒ると恐いというけれど、先生が怪訝な顔をしただけでびくりと心臓が跳ねる。

「あれ?でも、ちが……えっと」

おろおろと焦って言い訳を考えていると、先生は苦笑して謝った。

「すいません。心が狭いですね」

何て言っていいかわからず、怜は困った顔でふるふると首を振った。

「怜さんは魅力的な人ですし、自分なんかと付き合ってもらえるはずがないって思ってたのに……。だけど付き合う事になったら、やっぱり欲が出ますね?仕事だとわかっていても、怜さんに触れるかもしれないと思うと」
「だけどっ、女の子なのに?」

怜は面倒臭いとあしらったり責めたりせず、真面目に真弓と向き合った。
すると真弓はうつむいた。

「誰でもです。僕は意外と嫉妬深いのかも」

自己嫌悪に陥る真弓に、怜はそっと声をかけた。

「先生」

床にぺたんと座って覗き込むように体を乗り出す姿が健気で、真弓は罪悪感を抱いた。

「それでも、私は嬉しいです」

好かれていると実感出来る。
こういう事も相手が居るからこそで、それを感謝しなければならない。

真弓は思わず手を出したが体には直接触れず、髪を一房すくって感触を楽しんだ。
怜はそれだけでも固まってしまい、動けなかった。


真弓の仕事が終わってから会うとなると夜遅くなる。
そこから外に食事に行く事もあったが、真弓の部屋で作って食べる事もあった。
そしてただ話しているだけで時間が過ぎ、帰りは必ず家まで送ってくれる。

週に一、二回。たった数時間ずつだけれど、幸せな時間だ。

怜が帰宅すると、皐がチクリと言った。

「最近、仕事でもないのによく一人で出掛けてるよね」

もう寝るところだった王子は目を擦りながらも、然り気無くかばってくれた。

「怜ちゃんはお仕事大変だから、エステとか行ってるんじゃない?」
「こんな時間に?」

皐は明らかに怪しんでいる。
その時、テレビで悟と望と三人で行った試写会の様子が流れて、そちらに関心が行って助かった。
かと思いきや。
今度一緒になるあのアイドルが映った。

『今度ぉ、怜姫さんと雑誌の撮影で共演出来る事になってぇ!超嬉しいですぅ!もうデビューした頃からずっとファンだったんでぇ』

そのコメントを聞いた家族が皆、ハッとして怜を見た。

「いやっ……え!?あり得ないから!何考えてんの!女の子でしょ!」

テレビを指差して訴えると、望がさらりとフォローした。

「そうだよなぁ。怜にはちゃんと彼氏居るもんな?」

フォローではない。
暴露だ。

「のんちゃん!」
「れ、怜ちゃん……?どういう事だい……?」

パパは大変なショックを受けて詰め寄り、皐も一緒になって相手は誰だと責め立てた。

「のんちゃんのバカァー―!」

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