Sakura tree 3 暗に真弓の好みになりたかったと言われてしまうと、説明する声色もデレデレと甘くなってしまう。 「怜さん。ゲイだからって男なら誰でもいいってわけじゃない事は、わかってますよね?」 真剣な顔でこくこくと何度も頷くのが可愛らしくて、つい笑みが浮かんでしまう。 「人にはそれぞれ、好みがあります。男が好きでも、僕は筋肉質な人が好きなわけじゃないし、髪が短いから好きになるわけでもない」 怜はじっと、従順な子犬の様に真弓を見つめて耳を傾けている。 「怜さんの長くて綺麗な髪が好きだし、白い肌にも、ピンクの唇にもドキドキします。怜さんが怜さんだから、僕は好きになったんです。そのままで、大好きですよ?」 みるみる赤面した怜は、うろうろと目を泳がせた。 「あぅ……ごめんなさい……」 恥ずかしさで目を潤ませる怜を抱き締めたくなったが、怜がまだ慣れないからそれも出来ない。 そこで少し意地悪な気持ちが出てきて、真弓はこれくらい許されるだろうと思って言ってみた。 「それじゃあ、怜さんは僕の何処が好きです?」 「えっ」 狼狽える怜に助けを出さずに黙って待つ。 「私は……。私は、先生の優しくてあったかい声が好きだし、先生がにこって笑うところも……。目も、手も、全部っ。全部にドキドキして、全部好き…っ。……です……」 にっこりと満足げに笑う真弓の視線に耐えきれず、怜は顔を覆った。 「意地悪なのは嫌いですっ」 真弓はくすくすと笑って、怜への愛しさを実感した。 触れなくても、こうして会話をするだけでこんな愛情に満たされる。 ※ 「今度アイドルの女の子と仕事するんですけど、男としてだから、先生に見られるのがちょっと……って思っ……」 「アイドル?」 普段穏和な人ほど怒ると恐いというけれど、先生が怪訝な顔をしただけでびくりと心臓が跳ねる。 「あれ?でも、ちが……えっと」 おろおろと焦って言い訳を考えていると、先生は苦笑して謝った。 「すいません。心が狭いですね」 何て言っていいかわからず、怜は困った顔でふるふると首を振った。 「怜さんは魅力的な人ですし、自分なんかと付き合ってもらえるはずがないって思ってたのに……。だけど付き合う事になったら、やっぱり欲が出ますね?仕事だとわかっていても、怜さんに触れるかもしれないと思うと」 「だけどっ、女の子なのに?」 怜は面倒臭いとあしらったり責めたりせず、真面目に真弓と向き合った。 すると真弓はうつむいた。 「誰でもです。僕は意外と嫉妬深いのかも」 自己嫌悪に陥る真弓に、怜はそっと声をかけた。 「先生」 床にぺたんと座って覗き込むように体を乗り出す姿が健気で、真弓は罪悪感を抱いた。 「それでも、私は嬉しいです」 好かれていると実感出来る。 こういう事も相手が居るからこそで、それを感謝しなければならない。 真弓は思わず手を出したが体には直接触れず、髪を一房すくって感触を楽しんだ。 怜はそれだけでも固まってしまい、動けなかった。 真弓の仕事が終わってから会うとなると夜遅くなる。 そこから外に食事に行く事もあったが、真弓の部屋で作って食べる事もあった。 そしてただ話しているだけで時間が過ぎ、帰りは必ず家まで送ってくれる。 週に一、二回。たった数時間ずつだけれど、幸せな時間だ。 怜が帰宅すると、皐がチクリと言った。 「最近、仕事でもないのによく一人で出掛けてるよね」 もう寝るところだった王子は目を擦りながらも、然り気無くかばってくれた。 「怜ちゃんはお仕事大変だから、エステとか行ってるんじゃない?」 「こんな時間に?」 皐は明らかに怪しんでいる。 その時、テレビで悟と望と三人で行った試写会の様子が流れて、そちらに関心が行って助かった。 かと思いきや。 今度一緒になるあのアイドルが映った。 『今度ぉ、怜姫さんと雑誌の撮影で共演出来る事になってぇ!超嬉しいですぅ!もうデビューした頃からずっとファンだったんでぇ』 そのコメントを聞いた家族が皆、ハッとして怜を見た。 「いやっ……え!?あり得ないから!何考えてんの!女の子でしょ!」 テレビを指差して訴えると、望がさらりとフォローした。 「そうだよなぁ。怜にはちゃんと彼氏居るもんな?」 フォローではない。 暴露だ。 「のんちゃん!」 「れ、怜ちゃん……?どういう事だい……?」 パパは大変なショックを受けて詰め寄り、皐も一緒になって相手は誰だと責め立てた。 「のんちゃんのバカァー―!」 [*前へ] [戻る] |