Sakura tree 5 この誘いがあってから、怜はこの日がチャンスだと思った。 幸せな気分でチョコを一粒食べ終え、甘い匂いの中、怜は勇気を出した。 「先生には色々迷惑かけたり、沢山お世話になって……。先生が支えになってくれなかったら、きっと今の自分は無かったと思うし」 これから気持ちを伝えようという時、真弓からストップがかかり怜はきょとんとした。 「あの、考えたら直接言ったわけじゃなかったですし……。改めて気持ちを伝えたいと思って」 怜は頬を染め、自分が返事を言おうと思ってたのに…!と動揺してわたわたと慌てた。 「あの、でも…っ」 それを見て真弓も、はっきりフラれてしまう前に!と焦って思いきる。 「僕は怜さんが好きです!本気です。生徒の保護者と教師って事もですけど、怜さんは芸能人ですし……何より男同士だし、ハードルは大きいかもしれません」 怜は、真っ直ぐ注がれるその視線から目をそらせなかった。 「世間的には批判される事もあるかもしれない。でも!やましい事は何一つ無い。僕は純粋に、ただ貴方の事が好きだから。恥じる事は何も無いです」 これはやましい事じゃない。 純粋に人を好きになる事に、間違いも罪も無い。 そしてそれを表現する事も、恥じる事は決して無い。 怜は嬉しくて、熱く涙が滲んだ。 「どうして……」 顔を覆った怜の涙声を聞いて、真弓は不安になった。 「どうして先生が言うの……?」 そして告白は失敗に終わったと思った。 が。 「私が言おうと思ったのに…っ」 真弓は咄嗟に声が出なかった。 「………………本当にっ!?」 涙で潤んだ目で見つめ、こくりと頷くのを見て、真弓はやっと成功したのだと理解した。 「初めて先生と会った時、こんな人が恋人だったらなぁって……。素敵だなぁって思いました」 真弓は驚いたが、黙って耳を傾けた。 「でも、それはいけない事だし。少しずつ好きになっていっても、恐くて認められませんでした」 男同士だからいけないというよりも、立場的にいけないんじゃないかという方が強かった。 「けど、王子の両親の話を聞いて……。人を好きになる事は悪くないって思ったし、好きな人を失いたくないって思いました。失ってから後悔したくない」 怜は真っ直ぐ真弓を見つめ、強い口調で言った。 そして次の言葉を用意したら涙が溢れてきて、ぽろぽろと泣きながらそれを言った。 「先生には、居なくなってほしくない。そばに居てほしいです…っ。先生が好きだって言ってくれるのが嬉しいし、好きで居てくれるのが嬉しい。先生が、好きです…!」 真弓ははぁっと溜息をついて、残念そうに呟いた。 「外だから、僕は怜さんを抱き締める事も、手を繋ぐ事さえ出来ないんですね……」 怜もきゅっと悲しげに眉を寄せ。 「何も悪い事はしてないのに」 王子のパパも、ママも、叔父さんも。 そして怜と、真弓も。 ただ自然に、人を好きになってしまっただけだ。 二人はそっと体を近づけ、ただ寄り添って座った。 今は触れ合う事が出来なくても、心が通じ合っただけで何よりも嬉しかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |