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Sakura tree

皆、自分達の過ちを受け入れられず、全部女のせいだと責めた。
挙げ句、あんなに大事だったはずの珠樹さえ責め始めた。

大事だったからこそ。
裏切られたと思ってしまった。
それも女に会いに行って死ぬなんて……。
みっともない。恥さらしだ。

怒りに任せ、葉介に言って珠樹の荷物はすべて処分させた。
使っていた食器さえ、粉々に叩き割ってしまった。

それから珠樹の事は家では禁句になった。
皆、本当は気付いていたからだろう。
自分達が悪いという事を。
だから、躍起になって証拠を排除したのだ。
珠樹が居たという証拠を。

少しして、珠樹と会っていたあの女に子供が出来たと噂になった。
未婚で、父親もわからないらしいと聞いて、家族はピンときた。
それを家族に教えた方も……。いや、ここら辺の地域の者は大体わかっていたはずだ。
珠樹との事は噂されていたし、だから家族にわざわざ教えたのだ。

女は家族と一緒にしばらく消え、やがてまた子供が産まれたと噂が立った。
しかもその子供は外人のようだという。
珠樹の子供だと確信した家族は、その女の家に押しかけ、女からその子供を奪った。
女はまだ未成年だったし、親も娘がその年で未婚の母になる事を気にしていたから、子供は桜間家に引き取られた。

子供には既に『王子』と名付けてあった。
男の子なのにこんな名前をつけてしまって、あの女は愚かだとまだ貶した。
女はその後すぐに家族と外国へ行ってしまって、それからは一度も噂の一つ聞かない。
女はハーフだったから、父親の故郷へ帰ったのだろう。

きっと、珠樹と外見の事などで話が合ったのかもしれない。
珠樹があれだけ外見の事で差別され苦しんでいたというのに、家族は、その女が外人の子供だからと言って許さなかった。

何一つ、珠樹の為にしてあげられた事など無い。
珠樹を大事にしたのだって、ちゃんとした外見で、ちゃんとした体で生んでやれなかった後ろめたさからだったし、自分達が後ろ指さされない為だった。
同情され、評価されると、後ろめたかった気持ちがやわらいだ。
何一つ、珠樹の為を思ってはしていなかった。


成長するほど珠樹に似ていく王子を見て、家族は怯え、恐れた。
珠樹が家族を怨み、憎んで死んでいったかと思うと、まともに見る事も出来なかった。

「結局珠樹だけでなく、子供の王子にまで酷い事をした……」
「そろそろ私達も死が見える年齢になってきて、自分達の愚かさに気づいたの。……いいえ。きっと、自分達が死ぬ番になって、急に許されようと思ったのよ」
「そうだ。恐らく私達は、最期まで愚かだ」





古い洋館という非日常の空間で、現実離れした話を聞いて、怜は正直どう反応していいかわからなかった。
こんな話、王子にどう話せというのか。

怜はひとまず話してくれた事にお礼を言って、すぐに席を立った。
孫が元気にしているかいつ聞くのかと思っていたが、結局最後まで一度も聞かなかった。
そんな資格が無いと思ってるのかもしれないが、怜にはそれがただ愛情が無いようにしか感じられなかった。


桜間の家を出たところで、怜はある男性と鉢合わせた。
やはり彼も怜を見てハッとし、失礼など構わずにじろじろと見た。

「あの……」
「どちら様?うちに何か」
「王子の事で」

聞くなり男性は、いかにも迷惑そうな顔をした。

「話は聞きました!」
「両親が話したんですか!?」
「許されたいと言ってました」

男性はぐっと歯を噛み締め、それからゆっくり息を吐き出した。

「貴方、芸能人ですよね?」
「あ、え……そう、です……」

ずっと男でいたから、知られていたとわかると戸惑う。
若い層にしか知られてないと思っていたが、様々なメディアで報じられたから目にしたのだろう。

「両親も話したようだし、私からもお話ししましょう。両親が知らない事実を、私は知ってます」


男性は王子の叔父だった。
誰にも聞かれたくないと、桜間の本家や自身の自宅からもかなり遠い怜の家に近いところまで来て、更にオープンなスペースを避けてカラオケに入った。

やはり王子の父の事をそれほど聞かれたくないのかと思ったが、そうではなかった。
彼は、自身の秘密を知られる事を恐れていた。
ずっと。何年も前から。
それを知られる事に怯えて、だから両親と共に兄を憎む事にした。
その方が楽だったのだ。

「私は、兄の珠樹が好きだった」

実の兄弟で。
男同士なのに。

「家族や兄弟という以上の、好意を私は抱いていました」

これは、残酷と言うべきなのか。

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