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Sakura tree
第十七話 今、君を守る時
王子に乗せられて変な約束をしなきゃよかったとずっと後悔していた怜は、その時が来てもまだ不安や緊張で表情が硬かった。
しかしその店が視界に入った瞬間ぱっと笑みが浮かび、メニューを見たら不安などすっかり吹き飛んだ。

王子とコンビニにアイスを買いに行った時、新商品が出る度に買っている少しリッチなアイスを見て、ショップ限定のサンデーも食べてみたいと怜は言った。
怜が何となく言ったその言葉を王子は覚えていて、それをいつの間にか約束の相手に伝えていたらしい。

こちらから日頃のお礼として食事に誘ったのに、それは単なる口実に成り果てた。

「怜さんに誘ってもらって、こうして一緒の時間を過ごせるんですから、これくらい出させてください」

そう言って真弓が食事のお支払をしてしまったからだ。

どれにしようか迷っている怜に、真弓はふわりと笑って言った。

「他のは、また来た時に食べましょう」

“一緒に”というニュアンスを感じて、怜はドキッとして咄嗟に反応出来なかった。
照れながらコクコクと頷いた怜は、ストロベリーのサンデーを選んだ。

真弓はコーヒーを飲みながら、にこにこと幸せそうにアイスを食べる怜を眺めた。

「他に、怜さんが行ってみたい場所とか、やりたい事ってあるんですか?」

意図のある質問だとも思わず、怜は素直に答えを探した。

「んー……。プラネタリウムに行ってみたいしー……。昔遠足で美術館に行ったから、また改めて行ってみたいなぁとも思ってて。あとはアレ!チョコが宝石みたいにショーケースに飾られてるようなとこ!高そうだけど、一回食べてみたーい!って」
「それじゃあそこに、デートに誘っていいですか?今度は僕の方から」

怜はびっくりして何度かまばたきをした後、赤くなって小さく一つ頷いた。


それから辺りをぶらぶら歩いて、気になった店に入ってみたりもしたが、日が暮れる頃には帰途についていた。
それは真弓が「きちんとしたいから」と言ったからで、怜にもその意味がわかった。
まだ怜の気持ちを聞いてなくて、正式にお付き合いしてるわけじゃないからだろう。
わかっていても家が近くなると急に寂しくなって、二人は次第に口数が減っていった。

不意に真弓の手が触れて、怜は驚いて反射的に手を引っ込めてしまった。
手を繋ごうとしていたから余計恥ずかしくて、先生にも失礼だったと思い謝った。

「ごめんなさいっ」

しかし、そこには真弓の声も重なっていた。
真弓は頬を染めた怜にもう一度改めて謝った。

「すいません。やっぱり、急でしたよね。驚かせてしまってごめんなさい」

怜はぷるぷると首を振った。
胸元に引っ込めた両手をきつく握り締めて、眉をきゅっと寄せて苦しそうにする。
それを見て真弓は焦りすぎて失敗したと思ったが、怜はまた首を振った。

「ドキドキする…っ」

何て可愛らしい人だろう。
そう思うのと同時に、やはりゆっくり慎重になるべきだと真弓は思った。


とても楽しい時間だったけれど、怜は真弓に失礼な態度をとってしまった事だけが気になっていた。
うつむいて帰宅したところに、パパとママから大事な話があると呼ばれた。
それは王子の両親の事で、王子の叔父さんが話を聞いてくれなかったから直接伺うしかないと思ってる、という事だった。

「本家とか、秘密を明かさない感じとかが……。何だか伝統を重んじるっていうか、すごく保守的っていうか……その、古いっていうか……。そういうところに私なんかが行って大丈夫なの?」

女装はさすがに自重しても、金髪ロングでチャラチャラしてそうに見えるかもしれない。

「怜ちゃんだからいいんじゃないか」
「そうよ。王子ちゃんが一番懐いてるんだし。それに、王子ちゃんがパパに似てるって言ってたんでしょ?なら尚更怜ちゃんが行くべきじゃない?」

確かに。
納得しかけてはたと気づく。

「いやっ、逆に怒りを買ったらどうすんの!?」
「それを乗り越えてこそじゃな〜い!」
「怜ちゃんなら出来るよ!」

つまり。
何が何でもやれって事だ。

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あきゅろす。
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