[携帯モード] [URL送信]

Sakura tree

人に真剣に恋愛相談する事が、真弓にはとても新鮮だった。
物心ついた頃には女の子よりも男の子に興味があったし、友人ともそういった話はしないようにしていたから。
だからこんな堂々と男性が好きだという事を話せるとは思ってもみなかった。

きっとおちゃらけてバカにしたりするんだろうと真弓は思っていたが、相談出来るのは一ノ瀬しかいない。
人気の無い公園のベンチに男二人で座るのも、相手が怜さんだったらな……と真弓は想像してしまう。
すぱすぱとタバコを吸っている一ノ瀬に溜息をつく。

「相談あるっつったのソッチでしょーが。早く喋れ」
「話しやすい空気をつくるとか、そういう気遣いは無いんですか!」
「好きな女以外に見せる親切は持ち合わせておりまっせーん」

やはりこのふざけた態度にイラッとしたが、真弓はぐっと飲み込んだ。

「大学の時、恋人っぽい人が出来たんです。相手は男で、ちゃんとそうなれたのは初めてでした」
「何だ、思い出話か」
「真面目に聞いてくださいよ!」

真弓は諦めずに、再開する。

「正確には本当に“ぽい”人で、何となく気持ちが通じあってるかな?って……。そんな感じだったんですけど、周りが何となく怪しみだしたら恐くなって……」
「腰が引けたか」
「はい。人に聞かれた時思いっきり否定してしまって。それで縁が切れました」

次の日から避けられて、それっきり。
もしかしたらそれは彼が差し向けたもので、その時に否定しなかったら続いてたのか?とも考えた。
だけど追いはしなかった。
きっと自分もその程度だったんだろう。

「ゲイだという噂を払拭する為に、女性とも付き合いました」
「うわヤダ、サイテー」

一ノ瀬は無表情のまま、ギャルっぽい口調でふざけた。
真弓はそれを無視する事にして、勝手に続ける。

「だけどやっぱり、気がない事がわかったんでしょうね。すぐにフラれました」
「自業自得ゥー」

ギャルのキャラはまだ続いてるらしい。

「自分がゲイだという事を受け入れられてなかったために、人を沢山傷つけてしまった。多分ずっと、それを後ろめたい事だと思ってたんだと思います」
「教師になるならゲイはマズイと思ってたから?」

急に核心をつくから、びっくりする。

「ええ、それもあるでしょう。でも、多分それだけ同性愛への偏見や差別が浸透してるんだと思います。本人さえ無意識に嫌悪し、罪悪感を抱いてしまうほど」

だから自殺率が高いんだ、と話が脱線しそうになってやめる。

「怜さんもきっと色々あって、苦労して周りの理解を得られたんでしょうに。今度は人前に立つ仕事で……。僕なんかには想像出来ないような苦労があるんでしょうね」
「だろうな」
「そんな時に、僕が怜さんを支えたいんです。恋愛に抵抗があるなら、無理に押し付けたくない。だから怜さんのペースで、ゆっくり距離を縮めていけたらと思っていたのに……」

真弓はまた一つ溜息をついた。

「ほら、怜さんと仲がよかったっていう同級生」
「あー、響生」
「怜さんが断ってもしつこくつきまとってて……。カッときて……最悪な事に、勢いで言ってしまいました」

一ノ瀬はそんな事になっていたのかと驚きつつ、真弓が告白した事にも驚いた。
きっとこのまま本当にうだうだお互いに何も言わないまま居そうだと思ったからだ。

「やっぱり怜さん、僕が彼から怜さんを守る為に嘘をついたと思ってますかね?もう一度ちゃんと告白した方がいいですかね?どう思います!?」
「知らーん。とりあえず怜の反応を待てや」
「なん…!それが不安だから聞いてるんじゃないですか!ちゃんと告白する前にフラれたら…!」

返事を待ってればくっつくというのに、真弓はまだ本気で怜が自分なんかを好きになるはずかないと思っている。
一ノ瀬は面倒臭くなって、なげやりに答えて腰を上げた。

「いーからいーから。怜のターンを待て」
「先生!」





王子とコンビニにアイスを買いに行く事になった怜は、夜道を王子と手を繋いで歩いていた。

「真弓先生が、怜ちゃんのことすごく心配してたよ?」
「あっ、そう……」

様子がおかしいと気づいても、王子は知らん振りをして続けた。

「だから、怜ちゃんは先生にお礼しないの?」
「お礼?仕事の報告はしてるし、ちゃんとお礼は言ってるけど……」
「そういうのじゃなくってさ」

怜は、王子の提案に驚いて声を上げた。
が、王子は大真面目だ。
きっと王子自身もお世話になってると思ってるから、その分もお礼したいのだろう。と思って、怜はその提案に頷いた。

[*前へ][次へ#]

20/33ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!