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Sakura tree
第十六話 “彼”にかつて何があったか
スポーツ紙に載った悟、壱織、怜姫のスリーショットを見て、パパとママは感激していた。
だが皐はそれを素直に喜べなかった。
皐本人は兄達をとても誇らしく思っているのに、怜の事を“オカマ”だ何だと揶揄する者が居るのが腹立たしい。
怜本人も自分を“オネエ”やら“オカマ”などと言ったりもするが、それを差別用語として、蔑視する為に使われるのが気にくわないのだ。

怜はニューハーフじゃないし、女の子になりたいわけでもない。
ただ女装をし、メイクもする、怜の言葉を借りると「ちょっと乙女寄りなだけ」なのだ。

怜が高校生の頃、自分は“ゲイ”だと言っているのを皐は聞いた事がある。
当時は幼かったし意味がわからなかったが、男として男が好きな人の事だとわかった時、それほど嫌悪感を抱かなかったのを覚えている。
皐はそんな事より、男らしくて格好良い兄が好きだったから、ただヘラヘラして見えた怜に腹を立てていた。
ゲイという事が特異に思われているとわかったって、その価値観は揺るがなかった。





怜は自室のベッドでごろごろしながら、昨夜の出来事を思い返していた。

あれは、間接的に告白されたって事なのか……?
でも、だからってその先にどうすればいいかわからない。
昨夜も変な態度をとってしまい、告白が迷惑だったと思われたんじゃ?と不安になる。
そして自分がイエスと言えば丸くおさまる事に気付いて、怜はじたばたと一人で暴れた。


その頃真弓は、保健室で王子と話していた。
結局王子の両親の事はわからなかったから、その事を真弓からも話したのだ。

「でもよかった!怜ちゃんが元気になって!」

真弓は、発せられた名前にドキリとした。
そうだね。と曖昧に返事をして濁す。
元気なのは喜ぶべき事なのに、という事は真弓の告白を気にしてないという事か?とマイナスに考えてしまう。

「先生。バンソーコください」
「絆創膏?何処か怪我したの?」

真弓は話しながら席を立ち、絆創膏を取りに行った。
すると王子は真弓が背を向けた瞬間、こっそり机の引き出しを開けた。

「あっ!ちが…っ、違うんだ!」

真弓はあからさまに狼狽し、頬が紅潮するのが自分でもわかった。

「王子君!」

ファイルを取り返そうとするが、王子はひょいっとそれをかわす。

「ふーん……」

その純粋な心を表す様に青く透き通った目で見られると嘘はつけない。

「あの……。あまり……人に言わないでくれると助かるな……」
「うん。言わないよ?僕、先生がここにファイルを隠してるのも、たまに見てるのも知ってたけど、茜にも言ってない」
「え!?あ、そっか……ありがとう」

そういえば何度か見られていたかもしれない。
バレていないと思っていたが、王子はただ気付かない振りをしてくれていただけだった。

この子になら言ってもいいかと思い、真弓は落ち着いてイスに座って再び王子と向き合った。

「もう本人には告白したっていうか……まあ……結果的にそうなってしまったんだけど……。ほら、周囲に知られると、立場的にあまりよくないんだ」
「いけない事なの?」
「いけなくないと先生は思ってるよ。だけどまだ世間的には風当たりが強くて、認められないから……。色々難しいんだよ」

王子は何かを見抜こうとするように、じっと真弓の目を見つめた。

「好き同士なら、周りは関係ないんじゃなくて?」
「うん。本人達がよくたって、周りが許してくれない事が多い。法律もね。だから、自分を隠して生きる方が楽なんだ」

王子は首を傾げて、怜ちゃんは?と聞いた。

「怜さんは自分を隠すより、自分らしく生きる方が楽だったんだよ。僕も、もし怜さんと生きる事が出来たら、そうやって二人で堂々としていたい。夢みたいな話だけどね」
「先生は優しいから、僕、好きだよ?だからきっと怜ちゃんも好きだよ」
「そうかな?そうだといいけど」

もう三十手前になる大人が、中学生に励まされていた。





まだうだうだとベッドで寝転がっていた怜は、思い悩んでは赤面するのを繰り返していた。

誰かを好きになる事は、いけない事だと思っていたのに。
想いを抱いただけじゃなく、頷けば結実するところまできている。

怜は、不意に高校時代を思い出した。

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あきゅろす。
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