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Sakura tree
第十四話 死すべきは我が内奥の真実(たましい)
ゴシック系のファッションブランドの広告は「中性的」がテーマだったが、前回が女装という事もあって今回も女装だと言われた。
それはネットでじわじわと話題になり、例の同じ事務所のアイドルも引き続きブログで話題にしていた。

“キレイすぎるモデル”と題されて女装姿と男バージョンを比較する画像が拡散されたのは、あの壱織の後輩で、弟的存在だという情報があった事もかなり大きい。
するとRekiが載った雑誌が売れ、それに注目した朝のワイドショーでもほんの短い時間だが紹介された。

女装で話題になっているRekiを、壱織を慕うモデル達は“オカマ”と言って嘲笑した。
怜は自分でだってオカマという言葉を使うけれど、明らかな嘲りと共に侮辱の意味で使われると腹が立つし、傷付く。
怜は、何も聞こえてない振りをするしかなかった。

話題になっている事を反映し、壱織がレギュラーの雑誌では壱織とRekiとのツーショットで特集を組む事になった。
中性的なRekiは女装して彼女役になり、壱織はそのRekiの彼氏役という設定だ。
ミステリアスなキャラクター、世界観を守る為という理由で、Rekiはまだ取材は制限されている。
が、壱織がずっとお世話になっている雑誌で、本人もホームだと思っているから、ここでは許された。
そして大人達の期待通り雑誌は売れ、Rekiは“キレイすぎるモデル”“女装モデル”として知られる事になった。


クローゼットの中を見て、怜は憂鬱になった。
外では男の格好しか出来なくなって、それに比例して量も増えてしまった。
夜の店では男の格好をし、モデルでは女装をするという逆転現象が起き、怜の心と身体がバラバラになったようで、非常に苦しい状況だ。

自分を殺す生活は窮屈で、心を酷く消耗する。
だけど今は王子が居るし、真弓先生だって居てくれる。
本当は怜が王子を支えて、守ってあげなきゃならないのに、心配ばかりかけているのも心苦しい。

家族への疑念が残っているのも追い打ちをかけた。
そりゃあ少数派で変人、変態扱いされる家族よりも、世間的に「普通」と言われる多数派の方がいいに決まってる。
我を通し、自分らしく生きる事が罪で、人に迷惑をかけ、人を不快にさせるなら。
やはり死すべきは……。

精神的に少し落ち込んでネガティブになっている怜は、自分を見失っていた。


もういっそ心が壊れて、正気を失えたらいいのに。
そうすれば、この苦しみを感じずに済む。

バラバラになって死んでいく自分を。
衰弱する真実を看取らずに済む。

真弓先生に泣いてすがったのがバカみたいに思えた。
何て恥ずかしい事をしたんだろうと。

何故“自分らしく”なんて考えたんだろう。
何故家族に認められた気になって、解放された気でいたんだろう。
「最初からわかってたよ」なんてうまい事言って、受け入れた振りなんてして。
結局皆で騙して、こうして殺そうとしているじゃないか。

この呪わしい気持ちをぶちまけたくて、ヤケになった怜は真弓を呼び出した。
真弓に迷惑をかけ、嫌われ、呆れられても構わないと。そうなればいいと思ったからだ。

怜の家の近所の公園で待ち合わせた真弓は、怜の様子に驚いて、戸惑った。
ひとまず何処か落ち着いて話せるところに行こうとしたが動揺していて思い付かず、真弓の自宅になってしまった。
まさかこんな形で招く事になるとは思っていないし、怜もこんな形で来る事になるとは思ってもいなかった。


「どうして……。何で受け皿になるなんて…!支えになるなんて言ったんですか!」

八つ当たり以外の何物でもないと自覚はしている。
バカな事を言って、どろどろと渦巻くこの呪わしい気持ちをぶちまけたいだけだ。

「先生のせいで、私は自分を殺さなきゃならない…!」

わかってる。
これは誰のせいでもない。
私は私の首を締め、自滅しようとしているだけだ。

「“もっと自信を持ってほしい”とか、“幸せになってほしい”とか……。お金とか肩書きだとか、そんな欲しくもなかったものの為に私を売ったんなら!」

私は今、先生を失おうとしているだけだ。

「皆、私を殺した共犯者だ…!」

酷く、攻撃的な言葉で。
ヤケになって、いっそ先生さえ失おうとしている。

なのに。
だから。

涙が止まらなかった。

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