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Sakura tree
第十三話 ブロンドの憂鬱(メランコリー)
Rekiが抜擢されたゴシック系のファッションブランドの新しい広告は、「二面性」がテーマだ。
パンクとクラシックの二つのテイストを表す為で、パンクではヴィジュアル系の男性に、クラシックでは女性に扮する事になった。

ショップには巨大な広告が貼り出され、雑誌などにも掲載された。
この広告が意外な反響を呼び、一度Rekiが載った雑誌では扱いは小さいものの、モデルを紹介する記事が出た。
といっても公式に明かされている情報が少ないため、紹介される内容も限られている。

Reki、二十四歳。新人のモデル。
そして、男。

女装したのが好評で、女性的な男性なのか男性的な女性なのかと戸惑う声が多かったのだ。
これにブランド側は目をつけ、次も中性的なイメージで行こう!と即決だった。

Rekiの顔が知られる更なるチャンスとなったのは、このブランドが好きなアイドルの女の子がブログで話題にした事だった。
Rekiと同じ事務所だから明らかなヤラセ、宣伝だと思われたが、たまたま同じ事務所だったから許可が出ただけで、決して作為的なものではない。
むしろ身内での評価が低く印象もよくないRekiに、頼まれてもいないのに協力するような行為が不快にすら思われていた。
しかし同じ事務所だから却下するわけにもいかず、しぶしぶ許可したというのが真実だ。

アイドル自身は大変Rekiが気に入ったらしく、そういったよろしくない声も関係ない。

『男の人らしいんだけど、すっごくキレイ!ファンになっちゃった☆』

そして情報が少なく、謎な事を嘆く言葉で記事は終わった。


アンティーク調の撮影スタジオ。
ベッドで横になったショットの後の休憩中も、Rekiはそこで転がっていた。
最初は眠そうにまばたきをしていただけだったが、その内うとうとし始め、終いにはすっかりまぶたが閉じてしまった。

眉を寄せ、鋭い目付きをしていた青年は今クッションを抱き締め、静かな寝息をたてている。
それに気付いたスタッフは面白がって笑いながら、再びカメラを彼に向けた。

それを見ていた壱織も一緒に面白がるつもりで近寄ったが、内心では心配している。
万が一寝ぼけてオネエが漏れたりしたらマズイ。
その時は全力でフォローするつもりだが、バレずに目覚めさせる方法を壱織は……望は、知っている。


壱織がベッドに歩いていく姿に、スタッフもモデルも皆意外だと思った。
尊敬され慕われる壱織だが、謎が多くてなかなか深く踏み込みにくいのも確か。
親しくしてくれても、どこか壁を感じる。
だから壱織がベッドに腰掛けた時は驚き、甘さが滲んだ微笑を浮かべればハッとした。


注目される中、壱織は無防備に眠るRekiの頬にさらりと触れた。
Rekiが嫌がって身をよじるとニヤリと笑い、今度はクッションを奪い取って両手を掴む。

「れぇーえーき!」

キレるバージョンを狙っていつも通り起こしにかかる。
名前をわざとのばして「怜」を強調し、耳元で怒鳴る。
と、狙い通り。

「っるせぇ!」

ガバッと飛び起きたRekiの視界に一番に入ったのが壱織で、その背後にカメラマン。そしてスタッフ。
混乱してきょとんとするRekiを見て笑っている。

こんな状況でのんきに寝ていた事に恐怖し壱織を見ると、壱織が助けてくれたんだと目を見て察する。

「おはよう」
「……おはようございます」

仲がいい先輩後輩のやりとりでその場は和やかに笑って終わった。かに見えた。
壱織に憧れ、尊敬し、慕うモデル仲間達は、売れる為に軽々しく壱織のマネをするRekiがはじめからよく思っていない。
いくらスタッフが同じとはいえ、彼らにとってそれは冒涜に値する。
更に直属の後輩という事で壱織がRekiに特別に目をかけ、可愛がっているのが気にくわないのだ。

ずっと壱織に関わってきた、一番壱織に近いスタッフが、何故こんなやり方をするのか。
壱織が売れたのは戦略だけが理由じゃない。
それをスタッフが一番わかっているはず。それこそ誇りにしているはず。
なのに。
まさか、同じやり方でアイツも売れると思っているのか。と、Rekiをバカにして笑う。

事務所に押されているわけでもない。
壱織のスタッフだから。壱織が売れたから。
壱織のお陰で、お情けでアイツは使われてる。
それもどうせすぐ居なくなる。
しかし目障りだ。
早く居なくなればいいのに。


Rekiは、モデル仲間からもよく思われていなかった。

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あきゅろす。
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