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Sakura tree

話したい事があると言われて、真弓はドキリと心臓が跳ねた。
が、勘違いしてはいけないと思い直す。
怜がいくら頼ってくれているとはいえ、それはいつだって真弓が“手をとれ”とすぐ目の前に用意したものだ。
強引に、迫ったと言ってもいい。

好意を抱いた時点で、これらの行為は教師として失格なのかもしれない。
だが、真弓は教師である前に、人間である事を選んだ。
それが間違っているとしても。

調子に乗るなと自戒して、真弓は平静を装った。

「それなら、お店が終わるまで待ってますよ」
「そんな…!悪いです。先生だってお仕事あるのに」

また一人、肩を震わせて泣いてはいないかと心配しながら、下心があるのも事実で。
それがあからさまに露呈していないか、情けない必死さを見抜かれていないかと気にしている。
本来、怜とお近づきになれるような人間ではないと真弓は自身を評価しているから、これ以上みっともないところは見せたくないのだ。
それでも怜を助けたくて、好きなのもどうしようもないから、いい感じの人を繕いながらそばに居る。

「いいんですよ、全然。怜さんを送ってもいけますし。帰り道は外灯が少なくて暗いでしょう?」

これ以上の展開を望んでないと言えば嘘だが、それより失望されないか。嫌われないかと恐れている方が強い。
また強引に手をとらせ、お節介なまねをしていると思いながら、やっぱり可愛らしい笑顔には魅せられてしまう。


照れてふんわりと笑った怜を盗み見て、客達は笑みを浮かべた。
ヘタにからかうと怜が照れてパニックを起こすので、店の主人も知らぬ振りをした。
それで本当に気付かれていないと思っているのだから、我が子の様に可愛くなってしまう。
いいと言ってもいつも最後まできっちり片付けを手伝ってくれる子だから、今夜は早めに帰してあげようと主人は思った。


一度家に帰った真弓は、数時間後の店が終わる頃になってまた店に来た。
怜の家までの道を、二人でゆっくり歩きながら話した。

「あの、それで、お話なんですけど……。その……。先生に前も話した、中学の同級生に…………また告白されました」
「えっ!?“また”って……」
「でも断ったんです!きっとまだ本当には理解してないと思ったから。それで、メールでだけどまた告白されて……本気なのかな?ってちょっとパニックになっちゃって……」

真弓の脳内も今は混乱していた。

「だけどもう私は何とも思ってないって、ちゃんと落ち着いたら思い出して。……なので、断りました」

だからって怜が自分のものになるわけではないのに、それを聞いて真弓はホッとしていた。

「本当はこんな話わざわざ先生にする事でもないかなと思ったんですけど、先生には一度相談に乗ってもらってるし……」

こんな話をしてくれるのは、少しは意識してくれているからかな。と自惚れたくなるが、一ノ瀬の言う事を聞いていると自分の勘違いだと思ってしまう。
怜さんはきっと律儀に、そう思って報告してくれるんだろう、と。

ただの友人、いや、ただの相談相手として。
それでも。それだけでも今は嬉しくて、ついだらしなく笑みが漏れてしまう。


その時怜は、優しく包む様な真弓の笑顔に安堵もしながら、きゅんと心を掴まれて、思わず見惚れた。

そして頬を染めて笑った怜を、真弓は「可愛い」と思った。

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