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Sakura tree

「でも、でも……頑張って『違う』って言ったの。だけど、それでもまた『諦めない』って……。それってまだ伝わってなくて、相手が勘違いしてるって事?それとも本気でその、……告白してるって事?」

怜が困った顔をして、膝の上でもじもじと指先を動かすのを見て、望は首を傾げた。

「確認したいんだけど……。怜ちゃんは、気になってる相手に誤解されて困ってるわけじゃないんだな?」
「え?うん」
「ただ断りたいだけ?」

怜がきょとんとするのを見て、望はホッと安堵していた。

「なーんだ!んじゃ『好きじゃない』『好きになれない』って言えばいいだろ。だけど、それでもそんなにツラいのかぁ……。いや、お子様なだけか?」
「のんちゃんっ」

怜なりに深刻な問題なのに、そんな軽くあしらうように言われたら情けなくなる。

「恐くないよ」

本当に、子供を諭すような言い方だ。

「真面目に告白されたんなら、誠実に答えればわかってくれる」

ずきり、と。
相手が相手だけに思い出す。

あの時は真面目に告白したのに、相手にもされなかった。
『気持ち悪い』と、バッサリ切って捨てられた。

だからこそ。
私は誠実に答えるべきだ。

「ありがとう。やっぱり、『信じられない』って言う」


電話しようと思ったけれど、メールで来た告白はメールで返そうと思った。
貴方が見てるのは私じゃない気がする。信じられない、と。
メールを送っても、すっきりはしなかった。

もやもやしたまま、数日振りにお店に出た。

モデルの事をあれこれ聞いてくるより、お客さん達はオネエがバレたりしないかと心配してくれた。
そして「大丈夫だよ」と言ってくれた。
店のオヤジ共にウケがいいから、そういうキャラを作ってくれてるんだという事で口裏を合わせるから、と。

感動して泣きそうになりながら「ありがとう」を言ったら、皆「いいんだよ」と言ってくれた。
お客さん達のおかげで沈んでいた気持ちも晴れたところで、お客さんへの挨拶も明るくなる。
が、その顔を見て思わず尻つぼみになってしまった。

「先生……こんばんは」
「こんばんは」

先生はいつもの様ににこりと笑って、カウンターに座った。
慌てて笑みをつくったけれど、もしかしたら様子が変だと思われただろうか。
先生は支えになってくれると言ったのに。そしてそれに甘えてしまったのに、今になってこれ以上親しくなってはいけないと思うと、どう接していいか悩む。

態度がぎこちなくなったりして、不快にさせてはいないだろうか。

「お仕事どうですか?忙しくて大変でしょう。体には気をつけてくださいね」

先生の笑顔も優しさも、何もかわりないのに。


ふわふわと幸せそうな空気を振りまいて、客には決して見せない甘く崩れた笑みを、彼が来たら見せていたのに。
今の怜は違った。
言葉にはしなかったが、客達は目配せしてそれを確認しあい、どうしたのかと心配した。

怜の恩師から聞いた時から、客達は温かく見守ろうと決めてそうしてきた。
怜のことを気に入ったらしい知り合いが怜と合うと思ったから、うまくくっつかないかと思ってる、と。

それはいい!とワクワクし、我らが怜姫もやっと幸せになるのだと客達は喜んだ。
なのにやはり、怜は自ら心にフタをし、眼前の幸せを遠ざけてしまうのか。

ずっと城の最奥で、王子様の到来を待ちわびてさえいなかったお姫様は、きしくも『王子』という名の助けによって王子様と出会ってしまった。


自覚が無いと言われても、いけない事だと言われても、先生が支えになってくれた事にかわりはない。
今もこうして心配して、顔を見に来てくれるのに。
そんな人を前にして、急にその親切心を拒絶する事は出来ない。

何よりも、既に想いを寄せる事を是としてしまった。
今更それが否定出来ないと、先生を前にして知る。

「後で先生に、話したい事があります」

これ以上親しくなってはいけないなら、言えない事ぐらいわかってる。
だけど響生の事は最初から相談していたし、報告すべきかと思ったから。
本当にそれだけだ。
色恋の駆け引きなんて事は、自分なんかに出来るわけないし、そんな柄でもないんだから。

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