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Sakura tree

自分だってゲイだから、そうなる事を知らなかったわけではない。
ただ、想いが結実する展開を自分の人生において想定していなかったから、相手の事まで考える必要が無かったのだ。

「まわりに隠して普通の仕事をしてるんだったら、クビにならなかったとしても居づらくはなるだろ?堅い仕事してりゃ余計。ま、完全にバレたらの話だけど。……何?事務所からそういう話されなかった?」

ショックを受ける怜を見て、タクミは意外だという顔をした。

「この仕事をするって事は、そういう事も覚悟しなきゃならないのね……」

相手にかける迷惑が、より大きくなってしまう。

「でも、決めてるの。想ってるだけ、って。本当は“人を好きになるのもよくない”みたいに思ってたから、多分周りも心配無いって思ってるのかも」

怜は悲しげに笑って言った。

「だけど……そうね……。ちゃんと考えてなかった。新人だけどもうプロなんだし、責任感を持たなきゃね」

怜は、これ以上先生と親しくなってはいけないと強く決心した。


タイミングが良いのか悪いのか、その日の夜、響生からメールが来た。
それも懲りずに「諦めない」とまた告白するもので、怜は困るより動揺して、悲しくなってきてしまった。

真弓先生にこれ以上頼れないし、特に響生の事は言いたくない。
本当に困ってはいるが、嫉妬してほしくて計算で相談するみたいでいまいちすっきりしない。
これ以上親しくならないと決めたばかりで、恋愛の駆け引きのような事をするのはいけないと思ったのだ。

怜は半分泣きそうになりながら、仕事の先輩にもなった兄の部屋を訪ねた。

「のんちゃぁん……」

望は涙声にハッとして、反射的に立ち上がっていた。

「怜!」

ひくっ、としゃくりあげた怜の肩をそっとさすり、滅多に出さない甘い音と言葉で迎える。

「どうした?ほら、座れ。よしよし」

今に溢れそうな涙を溜めて、うるうると輝く目ですがるように見つめられると弱い。

「のんちゃん…っ」
「ん?」
「笑わないで?」

こうして頼られると無条件で可愛い弟だと思ってしまう望は、お願いされれば当然断れない。

「大丈夫だよ。言ってみ?ちゃんと聞いてやる」

怜は口を開いたが躊躇い、頬を染めてうつむいた。
おずおずと言った言葉を聞いて、望は複雑な思いを抱いた。

「告白されたら、どうするの?」

一体誰が怜に言い寄ったんだ!という怒りや、怜が遂に誰かにとられるのではという不安や寂しさ。
けれど怜にはいつか、好きな人と幸せになってほしいとも願っている。

「のんちゃんは、学校に行ってた時からお仕事してたでしょ?本当の自分とは違うイメージを持ってる人に告白されたりしなかったの?」

相手が誰か気になるのを何とか抑え、怜の質問に答える。

「俺はだけど、イメージは単なるきっかけに過ぎないと思ってるよ。そこから相手に深く知ってもらえばいい。それで失望して去ってくならそれまでだし」

ふとそらした顔には、怜にはあまり見せない冷たい色が浮かんでいて、怜は望が少し恐いと感じた。
皐を突き飛ばして叱られた時だって、こんなに恐い目はしていなかった。

「最初から相手に知ってもらえてる分、普通の人より近い位置からスタート出来るのはラッキーかな。だけど悪いイメージを持たれてる場合もあるからね。仕方ないけど」

これは学生の頃から大人に混じって、厳しい世界で働いてきた“壱織”の持つ一面だ。

「でも怜は…………。もし怜がその人と仲良くなりたいってんなら、イメージに固執してそれを求められるのはツラい事だろう。怜にはそのイメージを打破するのも、相手にアピールするのも、とても苦手で難しいんだろうから」

息が詰まって、ぎゅうっと胸がいっぱいになる。

「何でわかるの……?」
「そりゃあお前わかるよ。お兄ちゃんだからな」

にっ、と少しおどけて笑った顔は、既にいつもの“のんちゃん”だった。

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あきゅろす。
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