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Sakura tree
第十一話 真実の受け皿
本名非公開。
本人の経歴や家族構成すらトップシークレットになっている壱織は、当然取材でも、オフレコでさえそれらの話題は一切NG。
共演者やスタッフと交わす会話の中でも、それらの話題を出す事は暗黙のルールとしてタブーになっていた。
とはいえ、これまで表沙汰にならなかったのは奇跡的と言える。

壱織の知名度も上がってきた今、よきタイミングで家族の事を話す方がいい。
壱織本人も、その方がファンに誠実だと考えている。
が、まだ明かさないのは事務所が待ったをかけているからだった。

デビューする怜の為にも、壱織のキャラを守る為にも、今二人が兄弟だとバレるのはまずい。
そう言われると、名前に頼りたくなかった壱織だから、特別反対はしなかった。
ただ、それらを事務所から聞いただけで本人と話し合わなかった事を、望は深く後悔する。


本名、経歴、家族について非公開な“設定”は、事務所内でも壱織の二番煎じだとして反対意見があった。
そもそも『彼』は何者か。
壱織を見つけてきた矢嶋や壱織に近いスタッフらのプッシュで渋々納得はしたが、身内である事務所の人間でさえ、『彼』はどうか?と疑問が残っている。
身内にさえ壱織のコピー、二番煎じという見方をされているのに、『彼』につくスタッフまで同じという事で、必然的に業界でもその印象は強くなる。

『壱織で成功したからって、また同じやり方で……』

このやり方じゃあ壱織の看板が大きすぎて、比べられる新人が可哀想だ。
そういった否定的な空気は、壱織が好かれ、認められているからこそ生まれるものだ。

ミステリアスで、気軽に近寄りがたい煌めく空気をまとう壱織。
けれども人を引き付ける魅力もあって、意外に庶民的で親しみやすい好青年という素顔も持っている。
人によって態度を変える事もないし、人の悪口を言う事もない。

裏表がない。
決める時は決める。

壱織が好かれるのはそういった清廉な人柄のお陰で、認められ、尊敬されるべき資質があるからだ。

そんな壱織のコピー『Reki』

腰のあたりまで長い白金の髪は艶やかで、ただ一つに縛っているだけなのに目をひく。
背もそこそこあって細身でスタイルもいいし、顔も悪くない。
むしろ色白で肌も綺麗だし、中性的な顔立ちが壱織との差別化をはかれて売りになる。
素材は決して悪くないのだが、売り方や事務所の状況などの点で恵まれたデビューとはいかなかったのが残念だ。
しかし、なりふり構っていられる状態じゃないから……。と、事務所に対する同情的な見方があるのも確かだ。





Rekiは突き刺さる厳しい視線と緊張から萎縮して、挨拶まわりでは笑顔もつくれなかった。
それを反省して謝ったら、マネージャーの雨崎には「バレない為にクールなキャラで居れば、あまり喋らずにすむから大丈夫」だと言われた。
実際ボロが出ないようにしていると気が抜けず、嫌でもそうなってしまうのだが。

怜は控室で一人、真弓に「モデルの仕事をしました」と報告のメールをしていた。
そこにはもうキリッと引き締まった表情は無く、ほわほわと幸せそうに笑う無防備な素顔があった。

「彼氏?」

ドキッとして顔を上げると、タクミがにやついて見ていた。

「何だ……びっくりした」

携帯を握った両手をきゅっと胸元に引っ込め、そんなんじゃない。と言って首を振る。

Rekiとして男らしい低音を意識している時と違い、地声は少し高めで澄んでいて、印象ががらりと変わる。
Rekiになる前の怜と会っているタクミには、こっちの方がしっくりくる。

「この仕事始める時に相談にのってもらった人だから、報告しないとと思って」
「ふーん。男?」

探ってどうするのかと怪しみながらも、怜は頷いた。

「何してる人なの?一般人?」
「え、何で……?」
「いや、俺が言う事じゃないけどさぁ。万が一熱愛スクープなんて事になったら、二重にヤバイでしょ」

その時はゲイだとバレる時だ。

「相手だってそうなるワケだし、場合によっちゃ仕事クビになるかもしれないでしょ」
「うそ!何で!?」

怜はそんな関係にはならないと否定するのも忘れて、夢中でタクミに聞き返していた。

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