Sakura tree 6 睡魔に勝つべく奮闘している内に電話は鳴り止んで、しばらくするとママが来た。 「怜ちゃん。中学校から王子ちゃんの事で電話があってね?怜ちゃんにお話があるみたいだから、悪いけど今から行ってきてくれない?別に王子ちゃんが問題を起こしたわけじゃないそうだから」 「ふぁ?何で私なの?」 目を擦りながらだらだらと起きてあくびをする。 「王子ちゃんは怜ちゃんに一番心を開いてるし……。王子ちゃんの事を相談するなら怜ちゃんがいいんじゃないかって、先生方で話し合ったみたい。ママもそれがいいと思うの」 「いいけど……」 「最近王子ちゃん、あまり元気無かったしねぇ……」 王子の変化に気付いても知らない振りをした。 自分のせいで心配をかけているとわかっているからこそ、それごと全部無視をして、やがて問題が霧散していくのを期待した。 本来ならこちらが気を配って、守ってあげなければならないのに。 保護者として行くのだから、アクセサリーをしていくのはやめた。 ブラックデニムに、Vネックの白いニット。 Vネックが深く、それだけでは鎖骨や胸元が広く露出してしまうため、インナーにTシャツを着る。 以前、面倒臭くて着なかった時には「危ないだろう!」とのんちゃんに外出を止められ、結局着させられた事があった。 女性ならば危ないだろうが、別に男の体なのだから危ないも何も無いと思っても聞き入れてはくれない。 学校へ行くと、また女の先生方のキラキラした視線に曝された。 「どうもぉ、こんにちはぁ」 王子の担任の先生さえ媚びた声色で、それらに触れるほど彼女達を裏切っている様で心苦しく思う。 早速、実は…と説明されたのは自分が呼ばれた経緯で、その後は職員室ではなく保健室へ行く事になった。 「実は、王子君が保健室の先生に悩み事を相談していたみたいで」 「え?」 「別に特別な事ではないんですよ?カウンセラーの先生は来る曜日や時間が決まってますし、保健室の先生ならハードルも高くないんだと思います。それに王子君の場合担任が女ですから、男性の方が言いやすかったんだと思います」 深刻に受け止めないように配慮してくれているのだろう。 中には、我が子がそんなに思い詰めていたのかとショックを受ける保護者も居るのかもしれない。 「話すならお兄さんの怜さんがいいんじゃないかって言ったのは、真弓先生なんです。王子君の話を聞いたのは先生なので私も納得してますし、お母様もそれが一番いいと言って下さったので」 悩みの原因が自分なのだから、指名するのは当然だろう。 けれど真弓先生は、担任の先生にもその内容を言わなかったのかもしれない。 その気遣いをありがたく思う。 「先生。お兄さんいらっしゃいました」 担任の先生は案内を終えると会釈をして行ってしまい、あとは真弓先生と二人だ。 「どうぞ?」 「どうも……」 机越しに座ると面接の様で緊張する。 内容も内容だから、大人なのにしっかりして下さい!と叱られるかもしれないし、更に緊張が煽られるのだ。 それなのに先生は穏やか〜な空気を纏いながらコーヒーを出してくれて、いつ叱られるかびくびくしている身としては耐えられない。 早々にすいませんでした!と頭を下げてしまいたいが、謝るなら王子君に。と言われるのが想像出来る。 ひとまず緊張で渇いた喉をコーヒーで潤す。 「悪い事をして呼び出された小学生みたいですね」 くすっ、と笑って言われた言葉が意外すぎて、目を丸くした。 「小学生……?」 「しゅんとしてる姿が。別に怒るわけじゃないので、安心して下さい」 安心するより、そうか……と納得してしまったのは、真弓先生なら叱るよりも諭す様に冷静に言い聞かせる方が似合うという事だ。 情けなくて項垂れると、先生は一つ息を吐いて本題に入った。 「王子君が悩んでいたようだったので、話を聞きました。そしたら、王子君は怜さんが心配だと言ったんです」 「心配……」 「ある男性に会ってから、急に元気がなくなったって。それまでは元気だったのに、その人に会ってからだ、と」 心配で聞きたかったけど、王子はあえて聞かないでいてくれたのだろう。 王子ならそこまで気を使うだろうから。 「中学生の時の知り合いみたいだと言ってましたが、王子君は、怜さんがその人にいじめられてたんじゃないかと思ってるようで……」 「イジメ!?」 なるほど。 確かに響生に会ってしまったのが嫌で表情がひきつったり、態度も不自然だったかもしれない。 これまでの王子の境遇を考えてみても、いじめられていた人だからだと思うのも理解出来る。 「あのっ、違うんです!イジメとかじゃ……、本当に!」 だからって本当の理由を言えるわけがない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |