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Sakura tree

興奮の覚めない王子は皐にも同じく語って聞かせ、それにも皐は驚いていた。

望に乗って男らしくしてみればと煽っていたから、バレずに成功した事を悔しがるとか何か反応するかと思っていた怜だったが、予想外におとなしい皐に戸惑った。
しかしそれもママの提案によって吹っ飛んだ。

「せっかくだから怜ちゃん、今日はそのまんまで居たら?今日はお仕事お休みでしょ?」
「そうしようよ、怜ちゃん!皆に見せてあげて!」

王子の笑顔には負けたと観念し、怜が一瞬ママと目配せしたのを皐は見逃さなかった。
腹をくくったような溜息も、それと共に発せられるいつもより低い声も。

「しゃーない!気分がいいから、今日はずっとお兄ちゃんでいるかぁ!オネエ様はお休みよ!」

王子は、やったあ!と大喜びで怜に抱きついた。
それを微笑ましく見守るママは、お疲れ様。という意味でこっそり怜の背中に触れた。


ソファーに座る怜の隣の位置を確保し、王子は怜にべたべた絡み付く。
ポケットに突っ込んだ黒いヘアゴムを出して縛る間も、キラキラした瞳で見つめた。

今回の事で王子のヒーローになってしまった怜は察して、高い位置で髪をポニーテールにするんじゃなく、あえて外出時と同じく低い位置で縛った。


親戚の家を転々とする生活を送ってきた王子には、家族と呼べる人が居なかった。
家族だと言って温かく迎え入れてくれた場所で、王子はやっと家族と呼べるものを得た。
その「家族」を。
初めての家族をほめられたのだ。

タブーになっていて、誰もが口にしたがらなかったものとは違う。
家族をほめられるという事が、こんなにも嬉しく、誇らしく感じるのだという事も初めて知った。

だから怜は今、王子にとって、家族が居るという嬉しさを強烈に実感させてくれたヒーローなのだ。


熱く見つめる王子の姿も、髪を縛りながら王子に流す怜の目線も、皐は離れて座ったところから見ていた。

「怜ちゃん、首にしてるの何?カッコイイね」
「あぁ、これ」

チャリ、と揺れる十字架に、怜の白く細い指先が触れる。

「チョーカーだよ。昔人に貰ったやつ」
「誰?彼女から?」

踏み込んだ質問に怜が苦笑したのを見ると、イエスととった王子は追求しだした。

「ホントに!?いつ!?どんな人から貰ったの!?」
「違うよ。女の子から貰ったのは本当だけど、彼女じゃない」

ウソだぁ、と怪しむ王子はヒーローが奪われたと感じたのか、責めるようにむくれて不機嫌な声を出す。

「ホントに〜?」
「ホント。ただの女友達。高校の時はね、女友達ばっかだったから。誕生日にくれた内の一つだよ」
「怜ちゃんモテた?その友達の中で怜ちゃんを好きになっちゃう人は居なかったの?他にも何か貰ったの?怜ちゃんは誰か好きな人居た?」

質問攻めに驚きつつ、両手を広げ降参というポーズをとる。

「ちょっと待って、そんなに沢山……」
「怜ちゃんはそういうの、あんまり喋らないよ。俺だって聞いた事ないし」

いつもの皮肉る意地悪な口調に似ていて違う、視線も鋭く、怒気を帯びているように怜は感じた。
しかも悲しいかな、皐らしくなく怜を庇う発言だった事も気になったが、王子にはわからない。
まだ会って間もない皐の、普段との些細な違いなどわかるはずもない。

だから無邪気に「そうなの?」「何で?」とまた質問をぶつけるのだ。
それは王子が畏縮せずに心を開いている証なのだとわかるから、怜も皐も邪険な言い方が出来ない。

「怜ちゃんは秘密主義だから。くだらない事はだらだらと喋る癖にね」

皮肉も忘れない。
それがいつもの皐だったから、怜は素直に優しさだったのだと思い勘繰るのをやめた。

ホントに内緒なの?とでも言いたげに拗ねた顔で甘えるのも、王子にとっては初めてだろう。

「……わかった。でも質問は一個だけね?」

いよいよ降参すると王子は喜んだが、その向こうで皐が鋭い視線を投げつけている事に二人は気付かなかった。

「チョーカーの他に、この指輪も貰ったやつ。別な子にね。ハイ、質問終わりー」
「えー!ズルーい!先に答えるのナシー!」
「一個は一個。そう言っただろ?だからもうおしまーい。後は聞いても受け付けません!」

タイミングをみてママが宿題の事を持ち出してくれてやっと解放されると、怜は伸びをしてソファーに横になった。

「くぁー…っ。今日、コレずっとかぁ……。この長時間営業久々過ぎて、肩こる…!」
「どうせだったら一生そのままで居てみたら?王子が大喜びだよ」

皐も出ていきながら、またチクリと刺すのを忘れない。

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あきゅろす。
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