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Sakura tree

バレないかという緊張と警戒心でぎこちなくなってはいないか。不安でならない。

「それじゃあ、昼夜逆転の生活で大変ですね。終わるのは深夜なんですか?」
「はぁ、まあ」
「気をつけて下さい。最近ここら辺でも変質者が出るって言いますから。学校でも今、先生達で見回りをするか検討中なんです」

早いとこコーヒーを飲んで帰るのが一番だと思っても、まだぬるくならないから飲めない。
先生の言葉を反芻し、はたと気が付いた。

「見回りって……やっぱり、高校でもします?」

皐ちゃんの通う高校も近いから心配だ。

「検討中というのは、高校の先生方とも協力して地域を見回ろうかと話し合いをしてるんです。勿論そちらでも生徒達には注意を促すでしょうね」

お知り合いが居るんですか?と聞かれて、素直に弟が居ると答えた。

小さい頃は懐いてたのに、いつからチクチクと皮肉るようになったのか。
のんちゃんが面白がって遊ぶ姿を見て真似るようになってしまったのだろうか。

考えても仕方ないが、このキャラがそうさせるのかもしれない。

「心配ですよね」

脱線して考え事をしているのを、弟を心配しているのだと思われてしまった。
だから曖昧に声を漏らすしかなかった。


どっと疲れて帰途につく。

『王子君の事については、私達も慎重に対応していくつもりですから。ご安心なさって下さい』

成り行きで面談みたいになってしまった。

『何かありましたら、怜さんも遠慮なく相談して下さい。保護者の不安を解消するのも仕事の内ですから』

親切でいい印象の先生だったけれど、元からそういう人なのか、初めから妙に距離感が近かった。
そこで思い至るのが、怪しまれていたのかも、と。
さすがにオネエだとは感付かれていないだろうと思うのは、こちらが所謂「お仲間」とは感じなかったからだ。

だが一つ、懸念するのは……。


「ねぇ。ちょっと聞きたいんだけど……」

帰ると早速ママに確認してみる事に。

「のんちゃんと皐ちゃんと、悟兄にまで言われるんだけど……。私って……色々鈍いの?」

ママは目を丸くして、口許に手を当てた。

「あらやだ、怜ちゃん。今更その質問をしてる事自体がもうその証明じゃない。でも、怜ちゃんはそこが可愛いのよ?ウィークポイントじゃなくって、チャームポイント!」

二重の衝撃。
懸念していた鈍い説の確定と、それによってバレていないだろうという自分の認識が当てにならないという事だ。

「母さん!私は男らしく作戦は成功だと思うんだけど、大丈夫かしら!?私のこの手応え、信用度高い!?今の母さんの返事だと低いんじゃない!?あーどうしよう!バレてたらぁ…!」

ちょっとしたパニックで騒いでいるのをよそに、ママは至って冷静だった。

「んー、ママはそれは大丈夫だと思うけど……。王子ちゃんが帰ってきたら聞いてみたら?多分わかるから」
「え!?既にいじめられてるかもしれないって事!?」

むしろ不安は増大したまま、王子が帰るまでに一旦昼寝をする事にした。
あまり寝られなかったのと疲れのせいだ。

髪をほどいただけで、着替えずに布団の上に転がって、次に気付いた時にはそろそろ王子が帰る頃だった。

ばさばさと髪をかきあげて一階に下りてリビングを覗くと、王子が既に帰っていた。

「あっ、怜ちゃん!まだイケメンのままだぁ!」
「んぁ……?ちょっと、そのまま寝ちゃって…………んぇ?」

まだ寝ぼけていた頭がやっと起きた。

「怜ちゃんねぇ、すごかったんだよ!一緒のクラスの人も他のクラスの人も、みんな怜ちゃんがカッコイイって言ってた!あんなお兄ちゃんが居て羨ましいって!」

ママに聞かせる王子は、家に来てから一番嬉しそうで、誇らしげだった。
それはとても無邪気で、子供らしい姿だった。

「それでね?女の先生も、先生同士で怜ちゃんの事をカッコよかったねって話してたし、男の先生もそう言ってたんだよ!?すごいよねぇ!」
「すごいわねぇ!自慢のお兄ちゃんじゃない、怜ちゃん」

「ね?言った通りでしょ?」と言いたげな視線を寄越したママの言葉の意味を理解し、怜はホッと胸を撫で下ろした。

リビングの入り口で壁に手をついて、右手は腰に当てた格好でママと王子が話すのを聞いていた怜は、玄関が開く音で反射的にそちらへ視線を向けた。
頭だけを後ろへ傾け廊下へ覗かせたその姿勢で目が合ったのは、学ラン姿の皐だ。

「あ、おかえり皐ちゃん」

しかし皐は怜を凝視したまま固まっている。

「どした?」
「……それ……何?」

自宅に帰ってきているし、当然声を低くする必要はなく、オネエに戻っているのだが、男仕様の装いに相当驚いたようだ。
上から下まで眺める皐に向き直って見せて、訳を説明する。

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