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Sakura tree

硬質な雰囲気を纏った悟は、厳格で男らしい。
口数は多くないが、それだけに言わず語らず。懐の深い彼なりの優しさが滲み、頼れる人物だ。

甘い容貌に浮かべる笑みと華やかな空気で周りを明るくし、人を惹き付ける事が出来るのは、望の天性の才能だ。
長身でスラッとしているが、脱げば骨太でがっちりとした体つきをしている。

そんな二人の大人の男性と比べて怜はそこまで肩幅も広くないし、恐らく骨自体が細いのだろう。
女性と比べてしまってはさすがに差が出るが、男性にしては華奢と言える。
作りが華奢な上に、改めて見ても筋肉が目立たない体は細く、厚みも無い。

「とりあえず説明するから、下に来いよ」
「はぁーい」

後でね、と王子に微笑んでひらひらと手を振る仕草は女性的なしなやかさがあった。


王子は、隣に座る「彼」とは呼び難い人物をちらちらと盗み見ていた。
ハーフアップにした金髪がさらりと背に流れ、それだけで興味をひかれるのだ。
それは恐らく強烈な親近感で、そこに写真で見ただけの父の姿を重ねたのかもしれない。

洗ったばかりの素肌はつるりと白くきめ細やかで、すっと通った鼻梁は細い。
ぱっちりとした二重は目尻がシャープで、細いあごのラインから男だと判別出来るが、薄い口唇はぷるんと潤っている。
そんな綺麗な横顔はお兄ちゃんと呼ぶのにも違和感がある。
けれど真剣に話を聞く姿は格好良く映った。

思わず見とれていると、急にくるっと振り向いたから王子はしまったと思った。

「怜ちゃんって呼んで?」

低くない声は澄んでいて、寝起きの掠れた怒声であっても悟の地声の方が低かった。

「れい……ちゃん?」

本当に男の人かと思うほど、綺麗な人だと王子は思った。

初めて写真で父の姿を見た時、自分の父親のはずなのに、綺麗な青年だと素直に思ったように。
病弱だったという父はやはり線が細い印象だったが、眼差しは強く、凛とした佇まいをしていた。
王子は二重で大きな目をしているから、母親に似たのかもしれないねとおばあちゃんは言っていた。

「ほら。奇妙な生物が興味深いらしいよ、王子は」
「誰が奇妙な生物よ、失礼ね!」

王子が怜ばかり見ていたから、皐はチクリと嫌味を言う材料を逃さなかった。

「怜ちゃんは……」

解決出来ないこの疑問は本人に聞いてもいいものなのか、躊躇って言葉を詰まらせた。

「ん?なぁに?」

促され、おずおずと口を開く。

「怜ちゃんは、せっかくカッコイイのに……女の子なの?」

オカマだとか乙女というワードが飛び交っていたから、変わった仕草や言葉遣い、外見や雰囲気の理由も何となく察する事が出来た。
ただ本当にちょっとだけ、せっかくカッコイイのにもったいないなと思っただけだ。

怜は爆笑する望と冷ややかに笑う皐をうるさい!と一喝し、咳払いをする。
そうして説明するように、心は乙女だと言うなら納得出来るし、男らしくすればいいのにと思って言ったわけじゃなかった。
何を確認したかったわけではないが、興味だけの疑問だったから躊躇ったのだ。

しかしそれが誤解され、妙な方向へ進み始める。

「怜ちゃーん。王子はカッコイイ怜ちゃんをお望みだそうだよ?」
「え…っ、ちが」

とんでもない誤解だ。
望は例の悪戯な笑みを浮かべている。

「それいーじゃん、怜ちゃん。王子の為に男らしくなってみたら」

好機とばかりに乗ってくる皐を憎々しげに睨む怜は、ふるふると震える。

「おっ、鬼ぃっ!」

違う、誤解なんだと訴えようとしたが、望は黙ってろと制するように手を挙げた。
望はわかっていて、王子の言葉を利用したのだとその時気付いた。

王子は、むやみに変な事を言ってしまったばっかりに……と後悔した。





「やだ!仕事!」

話し込んでいて忘れていたが、まだメイクもしていない。

「ほらほら、男らしくー」

楽しげに人をからかう望を睨み付け、イライラと自室へ戻った。

着替えを済ませ、髪をポニーテールに縛り直し、メイクも完了。
いざ出陣!と部屋を出ると、そこには望が待っていた。

「はぁー、もう何よぉ」

脱力感に襲われる。

「今更ムリに決まってるじゃない。いつから『これ』やってると思ってるの?」
「わかってるって。でも、お前だって気付いてただろ?王子、お前の事気にして見てただろ」

それは気付いていた。
髪の色が同じ金だから、もしかしたら親のどちらかと重ねているのかもしれないとは思っていた。

「『せっかくカッコイイのに』って言ったんだぞ。それって、男っぽい方がいいって少しは思ってるって事だろ?本人がそんなつもりで言ったんじゃなくても、少し見せてやるくらい。な?」

時間も無かったし、結局この提案に乗ってしまった。
のんちゃんに面白がられる羽目になるのはわかってるのに。

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あきゅろす。
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