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Sakura tree

王子の中にはずっと、お世話になっている家から早く自立して出ていかねばならないのだという思いがあった。
初めて父の話を聞かせてくれたおじいちゃんとおばあちゃんも「ずっと居ていい」と言ったが、結局は将来の事を考えて…という理由で出ていく事になった。
実際、過疎化が進んだ田舎の小さな町より、色んな選択肢が増えるようにと将来を真剣に考えてくれたからなのだが、王子には少し見捨てられたような感覚もあった。
いつでも帰ってきていいんだからね。という言葉は嬉しかったし、何かあった時は頼れると心強くも思ったけれど。
自分が帰れる家ではもう無いのだと。手放しで甘えられる安心感はやはり無いのだと、一つの区切りがついた。

それが今、突き崩されようとしていた。


熱烈に歓迎された王子は家族の紹介を受け、何も知らずに一人放置されている存在を無視出来なかった。

「三番目のお兄ちゃんは?」

もしかしてここにもタブーが?と疑ってしまうほど、一瞬空気が止まったのを感じた。
しかし望がくくっ、と笑ったのを見て、これもまた望が面白がるような楽しい事が隠されているんだと思って安心した。
それを裏付けるように、パパとママも楽しそうに笑っている。

一緒に行くか。と誘われ、桜木家の三男はやっと事態を知るチャンスに恵まれる事になった。

「まったく。のんちゃんは悪戯が好きだね」
「心配だから、お兄ちゃんも一緒に見てきて?」

言う割に両親は静観の構えだ。

「来たばっかりなのに、いきなり刺激が強すぎない?どうせもう起きるんだからさ、わざわざ見に行かなくても」

危険な人なのかと思わせる皐の発言が不安を煽るが、望はケラケラと笑っている。

「いーのいーの、面白いじゃん」

確かめるように悟を振り向くと安心させるように頷いたから、王子はいざとなったら悟を頼ろうと思って二階へ向かった。


階段を上がってすぐ、左側の部屋が「彼」の自室だった。

望はまたくくくっと笑って王子に目配せする。
ドアに手をかけた時、その向こうで目覚ましが鳴り出した。
と思ったらドアに重い衝撃が走り、王子は目を丸くした。
目覚まし時計は破壊されたかもしれない。

いくぞ。という合図でそろっとスライドしていくドア。
部屋の中はモノトーンだった。
毛足の長い白のカーペット。
猫足の折り畳みテーブルは黒で、カーテンも黒。
白いローチェストに、そして何故かロータイプの白いドレッサー。

だがしかし残念なのは、服が点々と落ちているところだ。
それだけで部屋がだらしなく演出されている。

目覚ましを跨いで部屋へ侵入すると、テーブルの向こうにその姿が見えた。
フローリングに置かれた白いマットレス。そこに敷かれた布団の上に転がる肢体。

白いシーツに流れる髪は非常に長く、腰の辺りまである。
触れて確認してみたくなるようなさらさらの髪は、とても綺麗に明るい金の色に染められていた。

同じ色の髪に、王子は目をひかれた。

そこで眠る彼は筋肉の目立たないほっそりとした体をしていて、横になって少し丸くなっているが、見る限り背も高そうだ。
細く長い指は男性なのに爪まできっちり磨かれていて、その寝姿からはそこはかと無く色気が漂う。

「怜ちゃーん。起ーきてー」

望が躊躇い無く布団をべらっとめくり、容赦無く肩を揺さぶる。

「怜ちゃーん!れぇーい!」

ん、と吐息混じりに声を漏らして身動いだかと思うと、にゅっと伸びた腕が望の胸ぐらを掴み、あっという間に布団の上に引き倒された。
そして素早くマウントポジションをとられるが、見ると怜の目はしっかり開かれている。

「ぎゃー―ッ!怜ちゃん起きて!ちょっ、兄貴助けて!怜ちゃんがあ!」

顔が近付き、危うく兄弟で朝からちゅーか!?というすれすれで怜の後頭部をはいていたスリッパでスパーン!とフルスイングする救世主、悟。

「何やっとんじゃ!いい加減目ぇ覚ませ!この寝呆けオカマが!」

解放された望の聞き捨てならない暴言に怜はピクッと反応した。

「だぁーれが寝呆けオカマだこの野郎!繊細な乙女にむかって『我儘な眠り姫だね』ぐらい言って起こせねぇのか!」
「そんぐらいじゃ起きねぇだろうが!大体、乙女になら、んなダッサイ台詞も完ぺきに言って見せるわ!」
「なら言ってみやがれ!目の前の乙女にな!」
「乙女がこんなだらしねぇ部屋に居られるか!言葉遣いも戻ってんぞ!」

桜木家ではお馴染みのやりとりを前におろおろする王子の後ろから悟が止めに入る。

「いい加減にしろ。王子が困ってるだろう」

たった今まで王子が受けていた印象とはまるで違う男らしい怒声が飛び出した事が驚きだった。
兄に言われてハッとした怜と目が合うと、もう一人の兄の胸ぐらを掴んだ手を口元へ引っ込める。

「あらやだ。どちら様?」

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あきゅろす。
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