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Sakura tree
序言
昔、好きな奴が居た。
そいつとは中学で会って、最初はただ珍しい奴だなって印象だった。

協調性が無く周囲と馴染めなかった自分は、言うなれば問題児だった。
入学して二ヶ月も経たない内に、おとなしく教室に座って居るのが嫌になった。
それはきっと今思えば、自分を偽って生きる事を自然と強いられてきて、アイデンティティーが頼りなく明滅しているところを、様々なルールや常識で雁字搦めにされたからで。
このままでは、自分が自分でなくなるような危機感があったからかもしれない。

そんな時に自分に根気強く話し掛けてくれたのがきっかけで、俺達はいつも一緒に居るようになった。
だから俺はそいつが、俺の事を心から理解してくれてると思い込んだ。
彼は真の理解者で、すべてを打ち明けても受け入れてくれるのだとすっかり勘違いを起こしていた。

卒業間近、期待と不安を胸に全部打ち明けた。

『あのさ……。俺、お前の事好きなんだ……』

当然だけれど、ひどくびっくりした顔をしていた。
「ごめん!気持ち悪いだろ?」って笑って、気まずくなった空気をごまかそうとした。
けれどあいつの引きつった笑みを見た瞬間、すべてはもう遅いのだと悟った。

それからずっと気まずいまま避けられ、自然と俺も意識的に忘れようとあいつを避けるようになっていた。
運がいいのか悪いのか、俺達は別の高校に進学し、あいつとはそれ以来会っていない。


物心ついた頃から既に女の子と遊び、趣味も女の子と気が合った。
女の子から告白される事もあったが、全部断ってきた。
好きになるのはずっと同性だったから。

世界でただ一人、あいつだけがそれを理解してくれるはずだと盲信し。
告白をすれば有りの儘の自分が解放され、この理解者が不動のものになると思った。
ただ理解者を得たいだけで、本当は好きじゃなかった訳じゃない。
自己を解放したいだけで、あいつを好きだと勘違いしていた訳じゃない。
色仕掛け的に、告白をすればすべてが叶うと思い上がっていた訳でもないし、思い上がっていたからこそ激しく落胆し絶望したのでもない。

純粋に好きだったから、「気持ち悪い」という罵倒に傷付いたんだ。

俺はヤケになって、というよりも前後不覚に陥って、家族に何もかもをカミングアウトした。
案外すんなり受け入れてくれたのには拍子抜けで、やはり家族と言うべきか。
言わずとも薄々感付いていたらしい。

例のショックで吹っ切れたのか、高校では気にせず自分らしく過ごした。
それにも関わらず告白してくれる女の子が居たけど、それがきっかけで仲良くなったりした。

最近じゃ仕事先の居酒屋と自宅の行き来ばかりで出会いも何もあったもんじゃない。
個人経営の居酒屋に来るのはおじさまばかりだし、決まった常連さんが多い。
ダンディで紳士的なおじさまもいいけど、俺の好みは穏やかで懐が深い男の人。甘いマスクだったら尚良し!

なんて夢ばかり見てても現実はシビアで、今日も酔ったメタボリックなおじさま方に囲まれ懸命にはしゃいでいる。


このままお婆ちゃんになって孤独な老後をむかえるなんて嫌!
……体イジってないんだからお爺ちゃんだろとか言うな。落ち込むじゃない。泣くわよ。

お婆ちゃんになるまでには、素敵なパートナーを見つけられるかしら?

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あきゅろす。
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