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Sakura tree
第一話 新たな家族と頑張るオネエ
とある閑静な住宅街。
白亜の豪邸とも言うべきその庭付きの一戸建てに住んでいるのは、一般家庭よりもちょっとだけ有名な家族だった。

桜木家には男ばかり四人の兄弟が居るが、高校生の四男を除いて皆とうに成人している社会人だ。
早くに結婚した両親は、家族は一緒に居なければ!という妙なこだわりがあるらしく、どんなに彼らが出ていこうとしても許さない。
しかし本当のところは、「寂しいから出ていっちゃヤダ!」という単なる我儘だ。


ダイニングのテーブルでぼーっとコーヒーを飲む一家の主は、学生の時に小説家としてデビューし、今ではテレビ出演で顔も売れている。
妻によると「昔はもっとキリッとして男らしかった」そうだが、今はすっかり温厚で柔和なパパである。
常ににこやかで楽観的。穏やかな口調を崩さない一栄に、夫婦になって似てしまったのだと言う妻、杏子。
カウンターキッチンで朝食を作っている姿は普通の主婦だが、彼女も実は若い頃に芸能活動をしていた経験がある。
そこら辺が知り合うきっかけになったと思われるが、我が子にまで夫婦仲の良さを自慢する割に、馴れ初めを話した事は一度もなかった。

一栄に近い席でブラックコーヒーを手に新聞を読んでいるのは、桜木家の長男・悟。カメラマン。
艶やかな髪や目の色は父と同じ漆黒だが、童顔の父と違い、悟は寡黙でちょっと恐い印象を与える人物だ。
どちらかと言えば父より威厳があるように見える。

父の立場危うしである。


「ふぁ〜あ〜。はよー」

明るい色の茶髪はぼさぼさのままで、仕事時とは大違いな次男・望。モデル。
明るく社交的で、兄とは正反対のタイプである。

そして末っ子の四男・皐。
共学の公立高校の二年。
タイプ的には父似で悟とも似ているが、性格は冷めていて少々皮肉屋でもある。


一栄は嬉しそうに微笑みながら、思わせ振りに咳払いをした。

「皆に発表がありまーす!」
「へー」

スクランブルエッグをつつきながら望が興味無さげに返事をする。
悟は無反応で新聞を置くと朝食に手をつけ、皐は黙ってトーストにかじりつく。
一栄は拗ねて挫けそうになりながらも聞いてもらおうと頑張るが、やっぱりくじける。

「皆。パパが泣いちゃう前に聞いてあげたら?」

悲しむパパの味方、杏子が助け船を出すと、子供達はしぶしぶ耳を傾けた。

「実は、うちの空いてる部屋に住む人が決まったんだ」

子供達は驚いて手を止めた。

「何それ。居候って事?」
「一緒に住むんだったら、決まる前に相談ぐらいしてよ」
「どういう事?」

望、皐、悟の当然の反応。

「亡くなった佐倉叔父さん夫婦の遠い親戚の子を預かる事にしたんだ」

佐倉柾樹は杏子の弟で、預かるという子はその妻の親戚らしい。
といっても妻の麗とも血の繋がりは無く、預かってくれとの便りがよくぞここまで辿り着いたと感心するほどだった。

「複雑な事情があって、親戚の家を転々としてるらしいのよ。まだ小学生なのによ?」

のんきな両親が安請け合いしたんじゃないかという思いが兄弟の中にあったが、そうではない真剣さが彼らに伝わってきた。

「柾樹君と麗ちゃんが亡くなってから、子供達だけで大変だからね。うちならいつでもママが居るし、僕も家に居る事が多いから」

突然で驚きはしたが、反対する理由も無い。
両親の話に納得して頷いた兄弟だったが、やはりこの両親はどこか普通じゃないと兄弟達を呆れさせた。

皐は妹か弟が出来るみたいでわくわくしながら「いつから住むの?」と聞いたが、両親の答えに絶叫する羽目になった。

「今日ーッ!?」

三男不在の中、着々と話が進んでいた。


「という訳で。お兄ちゃんかのんちゃん、お迎えよろしくね?」

何を考えているか読めぬ父の微笑を前に呆れる面々。
母はごめんねー。と申し訳なさそうに手を合わせる。

お兄ちゃんこと悟と、のんちゃんこと望は時間に余裕があったので、二人で新しい家族を駅まで迎えに行く事にした。

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