番外・過去拍手ほか書庫
2
珍しくすんなり教室を出られた日だった。
慌てた様子で呼び止められ教室内を振り返った瞬間、廊下に居た誰かとぶつかってしまった。
ぶつかったというよりは突っ込んだが正しい。
目の前には男の胸元。
見上げると背が高くガタイがいい先輩が三人並んでいた。
まだ一年で背も伸びていない自分にはかなり迫力がある光景だ。
何か用があるのかとじいっとそのまま見ていても変わらず恐い顔で見下ろしてきたから早々に退散する事にした。
一応会釈だけはして。
でもそう簡単にはいかないみたいね。
手首が痛い。
「ちょっ、痛い」
ゴツい手が離れないー。
というか離してくれそうにない。
ほら。見てるだけで誰も助けてくんないし。薄情。
将ちゃんは殴んなって言うけど、これじゃあ他にどうやって自分の身を守れって言うんだ。
むうっ、と口を尖らせて拗ねたら危うくどこかに引っ張って行かれそうになったから仕方なく拳に力を入れた。
瞬間、いいタイミングで美術の先生登場。
運よく用があると美術室の隣の準備室まで行く事になって、何とか先輩達の魔の手を免れた。
「よかったー。あの人達しつこいんだもん」
「よく毎日代わる代わる絡まれてるな」
「わけわかんない」
逃げてすっかり安心して、何気なく近付いてきた先生にはまったく警戒心なんて無かった。
それをいい事に気付いたら目の前まで来ていたから、疑問を感じて見上げるとまた手首を拘束された。
まるで予想外の展開にびっくりし過ぎて声が出ない。
顔が近付いてきてやっともがくと余計ギリギリと力が入った。
「先せっ、何!?」
何も言わないのが更に恐怖心を煽る。
制服を脱がされそうになって、あいた手でばたばたと抵抗してみてもさすがに大人の男にはかなわない。
「やだ、ぃやだあっ」
耐えきれずにぐすぐすと泣き始めたらぎくりと躊躇したから一発全力で殴ってやった。
正当防衛だし許される筈。
やり過ぎてない。妥当だ。
カバンを掴んで走って逃げた。
でもまだ人が多くて、泣いてるのを見られたくなかったから安全な場所を探してコッソリめそめそした。
職員室の将ちゃんの机の下ならいいだろう。
部活で先生は少ないけど、あの先生も部活の顧問をしてるからここには来ない。
情けなさ過ぎやしないだろうか。
何でこんな目に。
「お前何やってんだ」
その声にびくりと体が跳ねる。
「だって……だってぇ、ひどいんだもーん」
「あー、わかった。わかったから泣くな。っつーかそっから出てこい」
「将ちゃん、安全?」
何度も確認してやっと出るとコーヒーを入れてくれた。
よし。将ちゃんは信用してもいいかもしれない。
それから放課後は響生の部活が終わるまで将ちゃんと職員室で時間を潰すという習慣が出来た。
なんとなく皐ちゃんから目をそらした。
「何か」
静かに呟いたからそろっとうかがってみる。
「あったまきた!!」
「え!?何で、皐ちゃん!?」
「兄貴達に言ったら絶対にキレるよ!何でそんな大変な事言わなかったんだよ!」
「だって」
「だってじゃねぇ!」
聞きたいって言ったから話したのに結局長々と説教をくらった。
しょぼん。
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