番外・過去拍手ほか書庫
2
「怜さん?」
不思議そうに首を傾げた顔が、みるみる曇る。
真弓はテーブルにマグカップを放し、怜の目の前で膝をついた。
「どうしたんですか?そんなに、悲しい顔をして」
何か言おうと怜は口を開くが、声を出せば震えて形にならないことが予想できるのでやめた。
心配してくれるのは嬉しいけれど、何故理由を察してくれないのかとなじりたい気にもなる。
「怜さん?恐い夢を見ました?あぁ、泣かないで。大丈夫です。大丈夫ですよ」
前髪をさらりと横へ流し、額からこめかみ、頬へと撫でられる。
温もりが触れた安堵と共に、それを聞いてはっきりわかった。
「せんせぇ…っ」
「はい?」
寝惚けていて、すぐにはわからなかったのだ。
怜が両手をのばすと、真弓は迷わず怜を抱き締めた。
「夢だった……」
真弓は夢と同じように抱き締めて、髪を撫でた。
そしてあやすように背中を撫で、もう大丈夫だとなだめてくれた。
「とっても……とっても幸せな夢だったの…っ。本当だと思ったのに、嘘だった…!」
あんなに幸せだったのに、それがもう何処にも無い。
それがとても悲しい。
「そうですね。すごく幸せそうな顔をしていたので、起こせませんでした」
仕事で疲れているんだろうから、というのは勿論あった。
けれど怜の幸せそうな寝顔を見たら起こすのが酷に思えたのだ。
しかしいくら幸せな夢を見たとはいえ、それが現実ではなかったと泣くほど悲しむとは。
真弓は夢の内容が気になって尋ねた。
もし自分にできることなら叶えてあげたいとも思ったのだ。
尋ねられると怜はびくりと体を強張らせ、頬を染めてそっと放れた。
寝起きで、動揺していたのもあって思わず抱きついてしまったが、急に恥ずかしくなったのだろうと真弓は思った。
怜は上目でちらりと真弓を見てから、顔を背けて小さく告白した。
「あの……今、ちょっとだけ本当になりました」
「え?今?」
今本物の真弓に抱き締めてもらったから、本当になったのだ。
けれども驚いてすぐ離れてしまったし、夢のような幸せを感じるまでにはいかなかった。
だからまたちらりと窺って、それをねだる。
怜が黙ってシャツを引っ張ると、ふんわりと甘く笑ってそれが叶えられた。
「そんなに泣くほど、これが夢だったのが悲しかったんですか?」
ぎゅっと抱き締められて、怜は真弓の胸でこくりと頷いた。
ふっと頭上で笑った気配は夢と一緒だ。
「ぎゅっとして、撫でてくれて。とっても幸せで、嬉しくて……」
怜が言うと、真弓はその通りにした。
「だけど起きたら何にもなくて……。すごく寂しくて、それで……」
思い出したらまた悲しくなって、怜はそっと目の前の温もりに頬を寄せた。
そうして落ち着きを取り戻すと、やっと幸福に満たされていく。
「しあわせ」
胸から溢れた想いが、ぽろりとこぼれて声になる。
「僕も。怜さんとこうして居られて、幸せですよ」
[*前へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!