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番外・過去拍手ほか書庫

「怜さん?」

不思議そうに首を傾げた顔が、みるみる曇る。
真弓はテーブルにマグカップを放し、怜の目の前で膝をついた。

「どうしたんですか?そんなに、悲しい顔をして」

何か言おうと怜は口を開くが、声を出せば震えて形にならないことが予想できるのでやめた。
心配してくれるのは嬉しいけれど、何故理由を察してくれないのかとなじりたい気にもなる。

「怜さん?恐い夢を見ました?あぁ、泣かないで。大丈夫です。大丈夫ですよ」

前髪をさらりと横へ流し、額からこめかみ、頬へと撫でられる。
温もりが触れた安堵と共に、それを聞いてはっきりわかった。

「せんせぇ…っ」
「はい?」

寝惚けていて、すぐにはわからなかったのだ。
怜が両手をのばすと、真弓は迷わず怜を抱き締めた。

「夢だった……」

真弓は夢と同じように抱き締めて、髪を撫でた。
そしてあやすように背中を撫で、もう大丈夫だとなだめてくれた。

「とっても……とっても幸せな夢だったの…っ。本当だと思ったのに、嘘だった…!」

あんなに幸せだったのに、それがもう何処にも無い。
それがとても悲しい。

「そうですね。すごく幸せそうな顔をしていたので、起こせませんでした」

仕事で疲れているんだろうから、というのは勿論あった。
けれど怜の幸せそうな寝顔を見たら起こすのが酷に思えたのだ。
しかしいくら幸せな夢を見たとはいえ、それが現実ではなかったと泣くほど悲しむとは。
真弓は夢の内容が気になって尋ねた。
もし自分にできることなら叶えてあげたいとも思ったのだ。

尋ねられると怜はびくりと体を強張らせ、頬を染めてそっと放れた。
寝起きで、動揺していたのもあって思わず抱きついてしまったが、急に恥ずかしくなったのだろうと真弓は思った。

怜は上目でちらりと真弓を見てから、顔を背けて小さく告白した。

「あの……今、ちょっとだけ本当になりました」
「え?今?」

今本物の真弓に抱き締めてもらったから、本当になったのだ。
けれども驚いてすぐ離れてしまったし、夢のような幸せを感じるまでにはいかなかった。
だからまたちらりと窺って、それをねだる。
怜が黙ってシャツを引っ張ると、ふんわりと甘く笑ってそれが叶えられた。

「そんなに泣くほど、これが夢だったのが悲しかったんですか?」

ぎゅっと抱き締められて、怜は真弓の胸でこくりと頷いた。
ふっと頭上で笑った気配は夢と一緒だ。

「ぎゅっとして、撫でてくれて。とっても幸せで、嬉しくて……」

怜が言うと、真弓はその通りにした。

「だけど起きたら何にもなくて……。すごく寂しくて、それで……」

思い出したらまた悲しくなって、怜はそっと目の前の温もりに頬を寄せた。
そうして落ち着きを取り戻すと、やっと幸福に満たされていく。

「しあわせ」

胸から溢れた想いが、ぽろりとこぼれて声になる。

「僕も。怜さんとこうして居られて、幸せですよ」

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