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番外・過去拍手ほか書庫
恵箱
一弥は小学生の頃からバレンタインにはチョコを貰い、中学生になると誕生日にプレゼントまで貰うようになっていた。
それは当然、一弥に気のある女の子からである。
冗談混じりにあげると言われたのをはじめは断ったが、誕生日当日に物を差し出されてしまうと貰わないわけにはいかなかったのだ。
結局一弥は、何個ものプレゼントを貰って帰ることになった。

帰宅した一弥は大抵、荷物を置くよりもまず恵の事を聞いた。
恵は何処?
今日は何してた?
そして荷物を置いてくると、手洗いうがいをしてから恵に会いに行く。
その習慣は高校生になっても続いた。

一弥が十七の誕生日。
相変わらずプレゼントを抱えて帰った一弥は、いつもの様に三嶋に聞いた。

「恵は?」
「先程までリビングで絵を描かれてましたが、花を摘みに行くと庭へ」

藤城家の敷地は広いが、恵が行ける範囲は限られている。
本宅とそれに面する日本庭園には立ち入り禁止。
恵達が住む別宅は門から一番遠い位置にあり、恵が行けるのは本宅裏の庭までだ。
それもあまり本宅に近付き過ぎるのはいけない。

「何の絵を描いてたのかな?」
「あっ」
「ん?」

リビングに入ろうとした一弥を三嶋が手を伸ばして止めようとしたから、一弥は足を止めた。

「いえ、その……」

歯切れが悪い。

「何?」
「聞かなかったことにしてください。今日は一弥さんの誕生日なので、一弥さんに贈る絵を描いてたんです」

一弥は目を丸くした後、ふっと笑みをこぼした。

「なら、見ないでおこうか。大丈夫。知らない振りをするよ」

花を摘みに行ったのもその為かと思ったから、一弥は迎えに行かずに恵が戻るのを楽しみに待つことにした。
けれど遅くて心配になっていたから、恵が戻ったとわかると我慢できずに玄関へ迎えに行ってしまった。

「お帰り」
「あっ、いっちゃん!」

恵は咄嗟に手を後ろに回して何かを隠した。
しかしそれを可愛らしく思うより先に、擦りむいた膝に反応した。

「恵、転んだのか?血が出てる。とりあえず上がりなさい。手当てしてあげるから」
「いっちゃん……」
「ん?おいで」

恵はもじもじして、照れながら摘んできた花を差し出した。

「はいっ、いっちゃんに。誕生日だから、プレゼント」

にっこりと笑ったその頬を突っつきたくなる。
可愛くて、一弥にまで笑顔が伝染した。

「ありがとう」

ピンクの濃いコスモス。
一弥はそれを受け取ると、恵をきゅっと抱き締めた。
わかってはいたけれど、怪我をしてまで摘んできてくれた事が嬉しかった。

学校で女の子達に貰う物より、恵が摘んできてくれた花の方が嬉しい。
恋愛に興味が無いわけではなかったが、立場や責任を考えると彼女達の想いを受け入れる気にはなれず、また誰かを好きになる事も無かった。
祖父や三嶋は「まだ学生なんだから」と自由な恋愛を勧めたが、言ってしまえばそれほど好きになれる人が居なかったのだ。

藤城一弥は彼女をつくらない。
女の子とも遊ばない。

いつからか生徒達の間ではそういう認識になり、半分冗談半分探るように「女子に興味無いの?」と、暗に男が好きなのか?と聞かれる事がたまにあった。
男に好かれる事はあっても好きになった事は無かったから、最初は馬鹿馬鹿しいと思い否定していた。
けれど一弥が誰かと付き合わないのは異常だというように、性癖を暴こうとする質問や行為は続いた。
下品な話題を持ち出したり、水着の女の子の写真を見せようとしたり。

だから一弥は心を一番占めている大事な存在を明かし、黙ってもらう事にしたのだ。

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あきゅろす。
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