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番外・過去拍手ほか書庫

急に触ったり、大きな声や、物音を立てるだけでも千草は恐がった。
暗いのも、血を見るのもひどく恐がって、時にパニックになった。

それ以外はずっとぼーっとしていて、喋る事も少なかったし、千草は一度も笑わなかった。

家へ帰ると、俺は自分の部屋をそっとノックして、静かに声をかけなければならなかった。

「千草。ただいま」

やはり。
千草はぼんやりと窓際で虚空を見つめていた。

昼も夜も窓の外を見上げてばかりいるから、何を見てるの?と聞いた事もあったが、千草は話してくれなかった。
だから俺は、何も見ていないんだろうと結論づけた。

夕飯までの間、何も反応を示さない千草に俺が一方的に話し掛けるだけの虚しい時間があって。
夕飯は皆と一緒にとる事もあったけれど、嫌がって動かない時は俺が部屋で食べさせてあげた。

あんなに可愛く笑ったのに。
千草は心を壊してしまった。
俺はそれが悲しくて、虚ろな人形の様な千草を見ながら泣きそうになってしまう事がよくあった。
その度にぐっと歯を噛み締めて、泣き出さないように我慢した。
千草は、泣けないほどに傷付いてるのに。


「千草」

なぁに?って言って。
名前を呼んで。

「千草……」

白い手を伸ばして。
もう一度笑って。

「……千草は…………どこを見てるの……?」

せめて俺の顔を見て。


「ほし」

俺は幻聴を聞いたのか、気のせいかと思った。

「……え?」

どきどきと心臓が早く鳴って、一つ息を吐き出した。

「何?何を見てるの?」

緊張してその口が動くのを待った。
すると。

「ほし」

確かに、千草は“星”と答えてくれた。
そして俺は気が付いた。
もしかしたら千草はずっと、星を探していたんじゃないか。
昼も夜も、天気が悪い日も。ずっと星を探していて。
ずっと眺めていたかったから、星が出てる日はそこから動くのを嫌がったんだ。

「千草……。ずっと、星を見てたの?」
「ほし」
「そうか……そうか……」

会話とは言えないけれど、あれから初めて、意思の疎通が出来た気がした。
それから俺は、毎日千草に星の事を話すようになった。

「見て。今日は星がいっぱい見えるよ。きれいだね、千草」

何も答えてくれなくても、そっと優しく手を握って、感情の無い顔を見ながら。

「知ってる?流れ星に願い事すると叶うんだって。千草だったら何をお願いする?俺はね、千草。千草がまた喋れるようになって、また笑ってくれますように。って願うよ」

もしそんな日が来たら……。
考えるだけで震えそうなほど、俺はそれを幸せに思うと。
そんな空想をした。

「ねぇ千草。聞こえてる?聞こえてるなら……聞こえてるならまた笑って?」

千草がまた笑うなら、その相手が俺じゃなくたっていい。なんて願いは到底出来ない。
だってもう譲れないほど、千草が好きになっていたから。

千草が一真さんと行ってしまうその日。
星の事を話すと、一真さんはとても驚いた。

「病院でね、千草に話したんだ。『千草のお父さんとお母さんは、空に昇って星になったんだよ』と……」

俺はただただ泣いた。
声を上げて、わんわん泣いた。

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あきゅろす。
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