番外・過去拍手ほか書庫
ずっと君だけを愛してる(京×千草)
可愛らしく笑うあの子が好きだった。
人見知りで臆病なところはあったけど、物静かで、心優しい。
気付けばいつも後をついてきて、時々可愛らしく笑ったあの子が。
俺は、千草がとても好きだった。
家が隣だから、幼稚園に入る前から仲が良かったせいもあるのかもしれない。
何も言わなくても、千草は俺が動くと黙って一緒についてきた。
いつかそれが当たり前になって、幼稚園でも大人達の間でも、俺達はいつも二人でセットだと認識されていた。
「千草君はいっつも由嘉君と一緒ね」
「二人は兄弟みたいね」
「本当に仲良しね」
俺はそれが嬉しかったし、誇らしくもあった。
弟の様に目を掛けて、大事に守ってやりたくなる。
可愛らしい笑顔を見たくて、何かしてあげたくなる。
俺は、千草に対するこのそわそわする想いがイケナイものだとも知らずに、あの事件を迎えて、最早捨てる事も出来なくなった。
手遅れだったのではない。
これは。
この想いは。
自然の成り行き。
逃れられぬ運命。
なるべくしてなった未来だ。
両親は悲鳴を上げて、泣きながら俺に叫んだ。
「英里!由嘉!入っちゃダメ!見ちゃダメよ!」
「何て事だ…!二人とも、家に戻りなさい!」
異様な空気が張り詰めていて、俺は恐くて、すがるように兄貴を見た。
兄貴は黙って俺の手を掴むと、言いつけ通り家に戻ろうとした。
今思えば兄貴だって恐かっただろうし、俺が千草を弟みたいに思ってた頃の様に、兄貴だって俺を守ろうとしてくれたんだと思う。
だけど、俺には、千草の事しか考えられなかったから。
「兄ちゃん。千草は?」
「いいから。言われただろ?」
「でも、千草は…!?」
両親が千草のお父さんとお母さんの名前を呼んで泣き叫んでいたから、二人がどうなってしまったかは何となく察した。
だから余計に、千草がどうなったか心配だった。
俺は兄貴の手を振り払おうとしたけど、兄貴はきつく握り締めて放さなかった。
「兄ちゃん!」
「ダメだ!」
「兄ちゃんッ!」
どうして放してくれないんだ。
俺はその時兄貴が、ただ両親の言いつけを守り、お兄ちゃんらしくいい子だと思われたいんだと勝手に思い、腹を立てた。
俺は兄貴に噛みついて、制止を振り切り、両親の腕もすり抜けて走った。
「千草!」
階段には赤い手と足のあとがついてて、それは千草の部屋のクローゼットに続いていた。
そっと開けると、そこには、恐怖でいっぱいに見開いた目に涙を溜め、ガタガタ震えながら両手で口を押さえる、血に塗れた千草が居た。
「千草…!」
雨に濡れた子猫の様に、その体はぶるぶると震えていて、俺は強く抱き締めて、大丈夫だと気休めのような事しか言えなかった。
千草はショックで言葉を無くしていて、千草が入院している間、叔父である一真さんと交代で両親が付き添った。
退院後、一真さんが千草を迎え入れる準備が出来るまでの少しの間、俺の家で千草を預かる事になった。
千草は二度と笑わなかった。
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