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番外・過去拍手ほか書庫

今時の若者代表みたいな見た目をして、勇はそのいじらしい彼のエピソードに感情を揺り動かされた。

「恵さん…!きっと寂しい時は一弥さんのシャツを引っ張り出してきて、それで我慢していたんですね!?」

その後はどうなったのかと聞きたがる勇はすっかり話に夢中になっていた。

「やっぱり、一弥さんは最強でした」

色んな意味で今も最強だと言えるけれども、当時から一弥はそう言えたという事だ。


ただいまを言いに恵の部屋を覗いた一弥は目を見開き、窺う様に三嶋を見た。
苦笑だけ浮かべると、三嶋はそっと離れて一弥に席を譲った。

泣き疲れて眠っている恵がかぶっているシャツが自分のだとわかると、一弥は衝動のままに恵を抱き締めた。

「いっちゃん……?」
「ただいま。恵」

ぱしぱしと数回大きな目を瞬かせると、恵は小さな手のひらで一弥の制服を握り締め、抱きついた。

「よしよし。頑張ったね」

震える肩を抱き締め、頭を撫でた一弥は、余計な事は何も言わずにただ恵の額に口づけた。
沢山の愛情を注ぎたかった。
精一杯。いつか嫌だって言われる様になっても、全力で愛したいと思った。

「いっちゃん、ごめんね?いっちゃんの服、ナイショで持ってきちゃったの」

赤くなった目を潤ませて言う様はある小動物を思わせた。

「いいんだよ、そのくらい。うさぎさん」

名前でなく、呼ばれたそれに首を傾げる様すらもそう見えて、一弥はくすりと笑った。

「ああ、それです。うさぎ!」

三嶋は小動物の何かに似ているとは思ったが、なるほど、それだ!と頷いた。

寂しいと死んでしまうのだから、もっともっと甘えてもらわなくては困る。
幸せそうに笑っていてもらわなくては困る。
それが一弥や三嶋の幸せでもあるのだから。


恵の幸せを願うその一人になれた事を、勇は誇らしく思った。
誰かを大事に思い、その幸せを願う事で、こんなに自分が満たされるとは。
彼に出会うまでは知らなかった事だった。

「俺、今の仕事が好きです」

噛み締める様に言ったそれをからかう事はせず、三嶋は同意の微笑を浮かべた。

「さて、我々も寝ますか。明日もうさぎさんの笑顔が見られるといいですね」
「はい!……あっ、もう今日になってますよ!早く寝ないと時間が…!」



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