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番外・過去拍手ほか書庫
恵、初めてのお留守番
日を跨ぐまで一時間を切った頃、彼はそろそろ寝ただろうかと松岡勇は時計を気にした。
初めは仕事に過ぎなかったそこには、今ではそれ以外の安堵も感じられるようになっていた。

今日も彼は無事にベッドに入る事が出来た。

彼の幸せは、いつしか勇の幸せにもなった。
だから彼に元気が無ければ力になりたいと思うのは自然な事で、それが仕事の範囲から逸脱した行為かもしれない事を勇自信も自覚している。
甘えてはいけないと自らを戒める恵に、それは自分に厳し過ぎるのではと口を出したのだ。
もう十分我慢している、と。


それは一日の終わり。
勇と三嶋はダイニングでお茶を手に息をつく。

「今日はよくやりましたね」

三嶋から発せられたセリフが何をさして「よくやった」と言っているのか。
勇がわからないままに三嶋は続けた。

「恵さんは本当に頑張り屋なんです。だから、ああやって許される事は大事ですよ」

よかった。

勇は自身がした事の正しさよりもとにかく、恵の気持ちが楽になれたかもしれない事を嬉しく思った。
が、ハタと気が付く。

「え……、あれ、聞いてたんですか!?」

焦る勇とは裏腹に浮かべられた微笑で悟る。
三嶋は思い出した懐かしい記憶に笑みを濃くし、語り始めた。

「昔からそうなんですよ、恵さんは。小さい頃からね」

勇はその穏やかな声色に耳を傾けた。


それは約十二年前。
恵は当時五歳。兄の一弥は十五。
三嶋は二十一と若かったのだが、既に兄弟の世話役を任されて数年が経っていた。

恵が赤ん坊の頃から進んで面倒をみていた事もあって、恵は一弥にべったりだった。
敷地内に出没する強面の大人達に怯える恵は、彼らを見かける度に恐ろしくて、一弥の足にしがみついた。
いつしか三嶋も恵にしがみつかれる程頼れる存在にはなっていたが、やはり一弥には敵わなかった。

家に居る時はいつでも一弥について回って、一弥もそれを可愛がった。
そうやって常に甘えてべったりのようでも、ぐずって手をかけさせるという事はあまり無かった。
感情のままにすべてを、言葉や態度にして表していないんじゃないかと三嶋が気付いたのはこの頃からだった。
だから子供らしい我儘も言わず、妙に聞き分けのいい出来た子供だと感心したものだった。

大好きな「いっちゃん」との毎朝の別れも、決して「行かないで」と泣いて騒いだ事は無い。
口にしても控えめに「もう行っちゃうの?」と瞳を潤ませるくらいで、夕方に帰宅した時はただ黙って足に絡まった。

幼稚園でも恵は一貫して「おとなしいいい子」だった。
やがて三嶋はそんな、大人に都合のいい子供に疑問を持つようになった。

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